1983年に相次いで出版されたナショナリズム論の新古典、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』とアーネスト・ゲルナー『ネーションとナショナリズム』は、現在もなお構成主義的ナショナリズム論の典拠としてその位置を占めている。構成主義的ナショナリズム論とは、社会構成主義(social constructionism)の立場から展開されるナショナリズム論である。社会構成主義とは、私たちが、本質的で、非歴史的であり普遍的であると思っていた概念が、じつは社会的な言説や実践によって構成されたものであると考え、それがいかなる歴史、環境、社会的条件によって成立したかを分析対象とする学問的立場である。 ジェンダー、セクシュアリティ研究を例にあげればわかりやすいだろう。社会構成主義以前のジェンダー論では、生物学的性(sex)と社会的性(gender)の違いは所与のものとされ、女性運動は市民権の付与や無償労働