「山中伸弥先生が開発したiPS細胞(人工多能性幹細胞)で、私の目は見えるようにならないのでしょうか」 網膜や視神経の病気で視覚に障害のある方から、外来でよく聞かれる問いです。 2014年に理化学研究所(理研)の高橋政代、栗本康夫・両氏らの研究グループが世界で初めて、滲出(しんしゅつ)性加齢黄斑変性の患者に対するiPS細胞由来の網膜色素上皮の移植を成功させたことが大きく報道されました。このニュースは多くの患者に希望を与えましたから、上記のような質問が出てくるのは当然でしょう。 ◇「主役」は神経網膜 そこで、この網膜移植についてよく考えてみましょう。図1はOCT(光干渉断層計)で見た正常な網膜の断面図です。網膜は視細胞を起点とした神経細胞のネットワークでできていて、そこに入った信号は視神経に集約されて脳に送られ、初めて「見える」ことになります。つまり、見えることに貢献する主役は網膜の神経細胞(