「翌日──京都を離れる日──、俺はもういちどおばちゃんの店に立ち寄ることにした。好きだった蕎麦ぼうろを持ってな。フリーのライターというのはうそで、児童劇団の営業をやっていることなんかもちゃんと話そうと思った。本当にやりたい仕事を、いまも模索していることも──。 よく晴れた、光のきれいな午後だったよ。俺は帰り支度をし、スーツを着、髭も剃って、船岡山のほうに向かった。 おばちゃんの駄菓子屋はなかった」 ──意味が飲みこめず、藤堂さんの顔を見た。 「駄菓子屋が、なかった?」 藤堂さんはあごを引いた。 「だって、昨日の夜はあったんでしょう?」 あったよ、と藤堂さんは平板な声で返した。 「そんな──、一晩で無くなるなんておかしいじゃないですか」、当たり前のことを言って藤堂さんの顔を見つづけた。藤堂さんも動かない目で見つめ返す。視線をつなげたまま、二人のあいだを数十秒が流れた。そして、ああ、と話を理解
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