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ブックマーク / btomotomo.hatenablog.com (7)

  • 小説「記憶のたわむれ」⑦ 完結 - Blue あなたとわたしの本

    話は──終わったのだ。 なんと言えばいいのかわからなかった。右の手の甲で意味もなく口もとをこすっている自分に気づいた。膝の上に手のひらを戻した。藤堂さんは同じ姿勢のまま、動かなかった。 「つまり──」と声をひそめて僕はささやいた。「おばさんは、幽霊だった──」 「わからん」、藤堂さんは思いのほかすぐに答え、顔をあげた。ゆっくりと頭をふり、どこか自嘲気味に微笑わらった。 「いまでもわからんよ。おばちゃんにはしっかりした存在感があったし──なんといっても抱擁までしたんだからな。和服に染みついたお菓子の匂いまで嗅ぐことができた。温かな涙まで流してた。そんな幽霊っているか?」 藤堂さんはまた短く黙ったのち、つづけた。 「だけど──そうだったんだろうな。そうとしか考えられない。説明がつかない。正直──俺にはもうどうだっていいんだよ。幽霊だろうが、夢を見ていたんだろうが。俺はたしかにあの夜、おばちゃん

    小説「記憶のたわむれ」⑦ 完結 - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/12/03
    藤堂とはいったいなんだったのか。考えると怖いなあ。
  • 小説「記憶のたわむれ」⑥ - Blue あなたとわたしの本

    「翌日──京都を離れる日──、俺はもういちどおばちゃんの店に立ち寄ることにした。好きだった蕎麦ぼうろを持ってな。フリーのライターというのはうそで、児童劇団の営業をやっていることなんかもちゃんと話そうと思った。当にやりたい仕事を、いまも模索していることも──。 よく晴れた、光のきれいな午後だったよ。俺は帰り支度をし、スーツを着、髭も剃って、船岡山のほうに向かった。 おばちゃんの駄菓子屋はなかった」 ──意味が飲みこめず、藤堂さんの顔を見た。 「駄菓子屋が、なかった?」 藤堂さんはあごを引いた。 「だって、昨日の夜はあったんでしょう?」 あったよ、と藤堂さんは平板な声で返した。 「そんな──、一晩で無くなるなんておかしいじゃないですか」、当たり前のことを言って藤堂さんの顔を見つづけた。藤堂さんも動かない目で見つめ返す。視線をつなげたまま、二人のあいだを数十秒が流れた。そして、ああ、と話を理解

    小説「記憶のたわむれ」⑥ - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/12/02
    話の筋と東堂の設定を考えるとこの後を想像したくなくる。
  • 小説「記憶のたわむれ」⑤ - Blue あなたとわたしの本

    店の正面まで来た。もう迷いはなかった。硝子の引き戸に指をかけ、覚えのあるその重みを──ゆっくりと横へすべらした。 菓子の甘い匂いとともに、クレヨンをぶちまけた色彩が魚眼レンズを覗いたみたいに目に飛び込んできた。なにもかもが変わってなかった。ほんとに、なにもかもがだよ。 奥の隅に──おばちゃんがいた。 昔とおなじ丸椅子に腰かけてた。えび茶色の和服の上に白い割烹着をつけてた。記憶にあるそのままの姿だよ。すこしだけ、小さくなったような気はした。 目が合った。屈託のない・昔のままの表情だった。痛みにも似た懐かしさが胸にひろがった。俺だってわかってはいなかった。取材うんぬんの話を俺は早口にしゃべった。おばちゃんは、ええよ、ゆっくり見ていってや、もう子どもも来こんやろうしね、と言った。声も記憶しているものとまったく同じだった。しゃべりかたもいっしょだ。自分の頬がゆるんでいくのがわかった。たぶん、何年か

    小説「記憶のたわむれ」⑤ - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/12/01
    次辺り来ますね。ちょっと怖い。
  • 小説「記憶のたわむれ」④ - Blue あなたとわたしの本

    「まぁ、待て。もちろんこれで終わりじゃない。ちゃんとつづきはある。東京に出てきてその五年後──つまり俺が二十三歳のときのことだ」 藤堂さんは缶ビールに口をつけ、残りを飲みほした。 「俺はそのとき、児童演劇専門の劇団のチケットを売り歩く仕事をしてたんだ。おもに小学校に──。けっこう大きな劇団でさ。全国で公演をうつんだ。俺の仕事はだから、営業のようなもんだな。車で日じゅうどこへでも行ったよ。三年間やったから、四、五千の小学校をまわった計算になる。四、五千だぜ。ちょっとした数だ。チケットを買ってもらい、会場の手配まですべて一人でやる。当日満員になった客席を見るときはいつも感激したもんさ。あぁ、この観客を自分が全部集めたんだな、って。もちろん劇団の信頼によるところであって、俺の力、ってわけじゃないんだけどな。でもとにかく、なかなかやりがいのある仕事だった」 藤堂さんはそこまで話し、腰をあげて新し

    小説「記憶のたわむれ」④ - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/11/30
    ほう! ドキドキだね。
  • 小説「記憶のたわむれ」③ - Blue あなたとわたしの本

    そんなある日、俺たちのクラスに転校生が来た。四年生になったばかりの春のことだ。 なんでも父親が有名なインテリア・デザイナーとかで、かなりの金持ちらしかった。背も高くってな(そのころの俺はどちらかっていうと小柄だったんだよ)、勉強もよくできた。いつも散髪したてみたいな頭をしてた。広い額がみょうに大人っぽくって、まなじりの切れた一重瞼ひとえの目がいつも冷静沈着でさ。なんていうか──黒目があんまりあちこち動かないんだよ。あぁ、こいつとは仲良くしたほうがよさそうだ、ってみんな結論づけたみたいだった。子どもってのは計算高いところもあるからな。仲間に入れるのか苛めるのか──ちゃんと決めるんだよ。 だけど、仲間に入れるどころか──そいつはあっというまに俺たちのグループのボスになってた。いつも財布に一万円ぐらい持っててさ。小学四年生がだぜ。今ではおどろくほどのことじゃないのかもしれないけど、俺たちのころは

    小説「記憶のたわむれ」③ - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/11/29
    藤堂ーーーー!! 吐いちまえ、何があったんだぁ。
  • 小説「記憶のたわむれ」① - Blue あなたとわたしの本

    窓から差しこむ秋の陽射しが小説原稿を照らしている。常緑樹を通して届くその光は、ゆれ動く模様を作っている。楕円形の光斑こうはんが三角の影にまじわり、たわむれ、離れてはまた重なり、いつしかひとつの光となって判別もつかなくなる。 新作の二十回目の書き直しがいま終わった。三週間寝かせたあとの推敲でほとんど直したいところがなかったから、今回の修正で最後としてもいいのかもしれない。いつものようにいじり続けるのだろうけど。僕の手もとを離れ、印刷にまわされるまで。 初めてあの話を──と思った。作品のなかに組みこんだな。 十九歳だった僕にその話を聞かせてくれたのは、藤堂とうどうさんという三十一歳になる男の人だった。それからすでに十二年の月日が流れた。いまでは自分も三十一歳になったというわけだ。藤堂さんとの付き合いは、もうない。彼がどこにいるのかもわからない。藤堂さんなどという人物が当に存在したのかどうか、

    小説「記憶のたわむれ」① - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/11/29
    おう。2から読んじまった。そういう展開なのね。
  • 小説「記憶のたわむれ」② - Blue あなたとわたしの本

    藤堂さんも一人暮らしだった。僕の部屋とはちがいよく片付いていた。天井の照明は意図的に光度が落とされていた。フローリングされた小ぎれいなワンルームだったが、暖房器具は電熱棒が赤く灯るタイプのヒーターしかなく、少し寒かったのを覚えている。モスグリーンのカーテンが窓にかかっていた。パイプでできた黒いシングル・ベッドが左の壁ぎわへ寄せられ、その足もとには棚が立っていた。思いのほか小説が多い。近代日文学がよく揃っていた。右側の壁には簡素な書き物机。ポスターの類はない。たしか、十一月の終わりごろのことだ。 座ぶとんを敷き、部屋の真ん中に置かれたロー・テーブルをはさんで向かいあった。藤堂さんのつくった野菜炒めをべ、ビールを飲んだ。焼き肉も出してくれた。「そういえば八代はまだ未成年だったな」と藤堂さんはいたずらっぽく笑いながら、グラスに缶ビールをついでくれた。 藤堂さんの好きな小説家を尋ねてみた。そ

    小説「記憶のたわむれ」② - Blue あなたとわたしの本
    masarin-m
    masarin-m 2017/11/29
    よし。誰も負けないよな。
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