新聞連載時から大きな反響を呼んだ小説『国宝』(朝日新聞出版)が上下巻の単行本で刊行された。任侠の一門に生まれながら、歌舞伎の世界に飛びこみ、稀代の女形になった男の数奇な人生を追った大河小説は、作家生活20周年を迎える吉田修一さんにとっても、新たな冒険に満ちた一作だった。旧知のライターで大の歌舞伎好きでもある瀧晴巳さんと小説の舞台裏、歌舞伎の舞台裏を語りつくす。 鴈治郎さんに黒衣をつくってもらって、舞台裏から歌舞伎を見ることができたのは、大きかったですね ――吉田さんとは、歌舞伎座でバッタリお会いしたことがあるんですよね。あれは2015年12月、折しも『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』がかかっていた時でした。あの時、すでに『国宝』ための取材をされていたんでしょうか。 そうでしたね。それまで歌舞伎は「観たことがある」くらいだったんですよ。それがDVDを観たり、実際に劇場に観にいくことを