忘年会を終えて、メレ子はホームにすべり込んできた若草色のラインの環状線に乗り込んだ。先ほどとはうってかわり、むっとする暖気が体を包む。パーソナル・スペースは5メートルと主張して憚らないディスコミュニケーター・メレ子にとって、年の瀬の終電は苦痛以外の何者でもない。車両の中ほどに大人しく押し込まれつり革に取りつく。30分ほどの乗車時間をどう過ごすか?身体をねじってバッグから文庫本を取り出すのも気が引ける。そもそも「話がつまらない男に尿意を覚える」をパブリックなスペースで読むのもためらわれる。車内の液晶モニタで「ドン・シボリオーネの英語でシャベリオーネ」でも見て見識を深めることにしよう。顔を上げたメレ子の眼に、異なものが飛び込んできた。 壁側に一列に並んだ座席シートの途切れるドア脇の狭いスペース、よくラッシュ時に乗降客をやり過ごそうと身を潜める人がいる場所に、座席シートの横仕切りにもたれかかるよ