その1 平凡社『月刊百科』 1998年2月号 No.424、14-15頁より。 「「知」の欺瞞について」のページへ 本稿の執筆に取りかかろうとしている今、97年の年の瀬である。米国の思想界でアラ ン・ソーカルの「悪戯」が物議を醸してからそろそろ二年、フランスでソーカル教授 の本『知的ぺてん』 (Impostures intelectuelles) が刊行されてからでも、早くも 三ヶ月が経過しようとしている。それにもかかわらず、米英仏の論壇をあれほど騒が せているソーカル事件、わが日本では――もしかすると私が寡聞だというだけのこと かもしれないが――いっこうに話題にならない。論評はおろか、報道さえおこなわれ ない。なぜだろう? ニューヨークやパリの知的流行には聡いはずの「現代思想」フ リークたちは、本当にソーカル事件のことを知らないのか。それとも、知っていなが ら――党派的・戦術的に――黙殺