こうして生きていて、自分で自分が分からなくなるときはないだろうか。 自分が何をしているのか、自分は何を望んでいるのか、自分に大切なものは何なのか分からなくなるときが。 いちいちそんなことを考えるのは余計なことかもしれない。 日常の生活には必要のないことかもしれない。 そんな余計なことは考えずに、一日一日を楽しく生きることに集中すればいいのかもしれない。 でも、考えてしまう。 何とも言えない満たされない感覚が、常に私に付き纏ってくるから。 仕事の依頼が入った。 現場は、古くて小さな公営団地。 依頼者の男性とは、現場で待ち合わせた。 故人は初老の女性で、例によっての孤独死。 依頼者の男性は、故人の息子だった。 男性と故人は、普段はほとんど交流がなかったよう。 親子関係にトラブルを抱えていたわけでもなさそうだし、仲が悪かったわけでもないみたいだった。 ただ、自分の家庭を持った男性は、その生活を守