夜通し歩いてみた。何故そんなことをしたのか、自分でも解らない。夜通し歩いてみようと思った。だから夜通し歩いてみた。いつもそんな風だ。町は何も変わっていなかった。信号機があった場所には信号機が有り、横断歩道があった場所には横断歩道があった。建物があった場所は更地に、見窄らしかった木造家屋は立派な屋敷になっていた。自分は手術で脳と睾丸を取り除かれたティッシュペーパーのように、馬鹿でふぬけになっていた。漠然と何かを夢見て、漠然と何かを期待していたのだと思う。これまでずっとそうだったように、夜通し何かを求めることで現実から逃げ続けていた。これまでずっとそうだったように、夜を通じてなんの努力もしなかった。ただ歩いていただけだった。昔の出来事を思い出し、辛く感じるのを期待していたのかもしれない。けれども、浮かぶのは今日のこと、そしてこれからのことばかりだった。「逃げ出したい」と思ったけれど、逃げている