この先何冊並べようと、福永武彦の『死の島』をこの手で並べることはないんだな、といつも思っていた。これ以上人間の喪失感をすくいとった小説はないのに! これほど高次な孤独を描いた人間の所業はないのに! 文字がみっしり詰まってるけど、それが何! 視覚的リーダビリティが何ぼのもんじゃい! 絶版なんて許せねぇ! という怒りの燠火(ホントは噴火レベル)を抱えて本屋に立ち続けた。だからこの本が新刊の入ったダンボール箱からある日出てきた時は心臓が止まるかと思った。この手にある。復刊して日本全国に流通した。やっと息が出来る。とても嬉しかった。 『死の島』のあらすじを書くのは大変難しい。作家志望の編集者相馬は二人の女を愛している。画家の素子と、彼女の同居人の綾子。二人の女が広島で服毒自殺を図ったと知らせを受け、急行列車に飛び乗る、というのがこの話の主軸である。 いてもたってもいられない心境でページをめくると、