昔,小倉 (福岡県北九州市) の近辺(?)に住んでいたことがあった.おととし,小倉に行く機会があり,時間があいたついでに,松本清張記念館を訪れてみた.この記念館は,小倉城のすぐそばにある,瀟洒な建物である.今回は,松本清張の「或る『小倉日記』伝」(新潮文庫)について書いてみたい. 松本清張は,1909年北九州市小倉北区(旧小倉市)に生まれた.41歳で懸賞小説の「西郷札」が入選するまで,様々な職に従事したようだ.清張はその後,1952年に「或る『小倉日記』伝」を三田文学に発表する.この作品は翌年芥川賞を受賞し,これにより松本清張は作家としての地歩を固めた.この年清張は44歳であるから,作家としては遅咲きということになるのかもしれない.いずれにせよ,この作品に,後の清張作品に繰り返されるテーマの多くを見出すことができる. 「或る『小倉日記』伝」は,主人公田上耕作とその母ふじの物語である.耕作は