システムにとって意図とは何か 前田 修吾 意図と行為の関係は因果関係であるという、古くからある常識的な説明は、デイヴィドソ ンが主張するように、正しいのだろうか。車のエンジンをかけたり、散歩をしていて、ふ と空を見上げたり、といった行為すべてに、行為に先行する意図というものが存在するの だろうか。 本論ではシステム論的な観点から意図と行為の関係を明らかにしたい。 伝統的な行為概念 意図と行為の関係を論じる前に、まず、後期ウィトゲンシュタイン以前の伝統的な行為概 念について触れておきたい。手を上げる、新聞を読む、ビールを飲む、などはいずれも行 為である。一方、石につまづく、寒さにふるえる、などの単なる身体的な振舞いを行為と 呼ぶことはできないだろう。では、行為と振舞いを区別するものは一体何だろうか。行為 とは一体何であるのか。 伝統的な行為概念では、振舞いに先行する意図が、その振舞いの原因を