1:1 田舎の道にて、重き車輪が轍を刻みつつ、老女を静かに揺り動かしける。 1:2 老女は声を上げて言ひける、「何と感謝すべきことか。歩くこともままならぬ我を、助けていただき、その上治療まで施してくださるとは。これも全能の主が、汝の如き慈悲深き方を、我がもとに遣わしたまへればこそ…」 1:3 老人は黙し、言葉を発することなく、ただ前を見据えける。 1:4 老女はなお問いける、「汝もまた、主を信じ奉る者なるか…そのようにお見受け致し候ふが」 1:5 老女の眼差しは、無言の老人の背に移り、さらには荷台に置かれし古びた聖書に止まりぬ。それは時の流れを刻む如く使ひ込まれけるものなり。 1:6 老人は静かに言葉を紡ぎける、「然り…信じておる」 1:7 彼はさらに続けて言ひける、「されど、主は唯…人の運命を弄びたまふのみ」 1:8 老女は穏やかに微笑み、「それは、まさしく深遠なる教理の解釈に相違なし」