何度かの中止を経て軌道機(オービター)から分離した着陸機(ランダー)は極寒の衛星Tへの着地に成功した。着陸地点は液体メタンで出来た大きな湖の浅瀬で幸い機械は壊れなかった。 メタンの湖に氷塊がまばらに存在する(浮かんではおらず着底している)光景に制御室の人々は感動のため息をもらした。着陸機に移動能力はないから、ここから定期的に周囲の環境を観測するのだ。 一番大きな変化を見せてくれることが期待されたのは気象であった。実際にメタンの雨を降らせる雲がオレンジの空を流れていく。 数日してカメラの担当者は空以外にも動くものがあることに気づいた。 「だんだんと氷塊が近づいてきている?」 毎日の写真を確認すると視界にあるいくつかの氷塊が着陸機の方に少しずつ動いて来ていた。 「液体メタンの流れに乗っているのか?」 「そのような流れは確認されていません」 「デスヴァレーの石のように風を受けて動いている可能性は
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