明治期、西欧の詩が日本へ翻訳紹介される中で伝統的な和歌や俳諧、漢詩とは別の詩を模索する動きが生まれた。 本書は『新体詩抄』(明治十五年)周辺の状況と影響、その後の近代詩の歩みを論じる。 『新体詩抄』に恋の詩がなく志の詩ばかり並ぶのは、詩のイメージの底に漢詩があったからだという推測や、軍歌と大衆化の問題、衰退の道をたどった古典派の意見の再検討など、近代化の歩みに迫る柔軟な視点に引きこまれる。 『新体詩抄』の編者の一人である外山正一は、ドイツ美学を援用して批判を展開する森鴎外に対し反論をしなかった。それは、そもそも西洋の詩学に基づいて新体詩を語るより「感動」を根拠に考えようとしたからだと、著者は指摘する。「近代的芸術観」によって形成された詩の風景。そこからこぼれて忘れられた試みにも本書は目を向ける。 美学の研究者による本書は、詩を主題にしつつも美術、演劇、音楽なども含めた意味での「近代芸術」が