1970年代から80年代前半にかけて小林信彦に熱中した。『日本の喜劇人』や『東京のドン・キホーテ』などの晶文社刊行書、角川文庫なら哄笑(こうしょう)を誘うオヨヨ大統領シリーズから純文学の『冬の神話』まで手を伸ばした。 初めて触れた彼の作品が『雲をつかむ男』だった。掲載誌の「ミステリマガジン」(早川書房)72年1月号で読み、後に文庫短編集『中年探偵団』に所収されることになる。中学1年の私は小林の名をまだ知らない。その頃クラスで海外ミステリが流行り、競って創元推理文庫を買いあさった中「こんな雑誌もあるのか」と好奇心に駆られて同誌を購入したのだろう。 中で惹きつけられたのがこの掌編だ。通称「雲をつかむ男」、雲仁紛は世界一の広告会社、電報堂部長が難問に遭遇した際、相談する正体不明の人物。人気下り坂のタレントが司会をつとめる音楽番組の視聴率を何とかしたいとの命を受け、部長から紹介された社員の四方寧は
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