直径2~3センチほどのこの物体は100~200個ほどの小さな繭(まゆ)が集まったもので、集合繭と呼ばれる。ツンツンと突き出ているのが1個1個の繭だ。
山舩晃太郎さんは、2010年代後半を、まさに「7つの海」の沈没船遺跡を次から次へと転戦し、研究の進展に貢献してきた。新型コロナ感染症のパンデミックで中断されるまで、1年のうちの10カ月間ほどを海外で過ごしており、日本にいる2カ月間も、九州での共同研究や、東京での講義など、常に旅の中にあった。 山舩さんは、この時期に世界で一番、多くの沈没船の発掘現場の場数を踏んで経験を増した水中考古学者だと断言できる。沈没船の考古学者が一生のうちに関わる沈没船は、多くてもせいぜい10~20隻だという。しかし、フォトグラメトリの技術と、多くの沈没船を見てきた目の確かさを見込まれ、依頼を受けて各地を飛び回る山舩さんのペースだと、2年間で他の人の一生分の現場を踏むことになるのである。 そういった経験を通じて、山舩さんの中には、様々な思いが蓄積しているはずだ。それはどんなものだろうか。
ニュージーランドは、フィヨルドランド国立公園(写真)をはじめとする驚異的な地質景観に恵まれている。こうした景観は、謎に包まれた8番目の大陸「ジーランディア」のほんの一部にすぎない。このほど、ニュージーランドの東海岸の地下に古代の超大陸の陸塊が隠されていたことが明らかになり、ジーランディアの複雑な過去を解き明かすカギとなることが期待されている。(PHOTOGRAPH WESTEND61 GMBH, ALAMY STOCK PHOTO) 南太平洋に、マオリ語で「テ・リウ・ア・マウイ」と呼ばれる失われた第8の大陸「ジーランディア」が隠れている。現在、約490万平方キロメートルにおよぶジーランディアの大半が海底下にあり、ニュージーランドの島々は海上に突き出たこの大陸の一部だ。 ジーランディアは最近になってその存在が科学者たちに認められた。これまで知られている中で、最も多くの部分が海中にあり、最も薄
プレート運動で押し上げられることのない米国南東部のアパラチア山脈は、風化によって侵食されて、少しずつ低くなっている。研究により、過去に地球上の高くそびえる山脈が約10億年にわたって成長を止めていたことが示された。(PHOTOGRAPH BY ROBB KENDRICK, NAT GEO IMAGE COLLECTION) もしもあなたが10億年前の地球を探検できたとしたら、目を引くものがないことに驚いただろう。樹木や昆虫をはじめ、空を見上げても鳥もいない。生きものは、どろりとした原始の海のスープに浮かぶ単純な微生物だけだった。 このほど2月12日付けで学術誌「サイエンス」に発表された新しい研究により、当時の地球になかった可能性のあるものが、もう1つ加わった。高くそびえる山々だ。 今日の地球の表面を覆うプレートは常に移動し、そのスローモーションのダンスは表面の地形を作り出している。大陸どうし
フィリピン、フリーダムアイランドのエコツーリズム地区に漂うプラスチックごみ(PHOTOGRAPH BY RANDY OLSON, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 世界の海岸に打ち上げられた漂着ごみで、キャンディの包装材やスナック菓子の空き袋といったプラスチックの食品包装材が初めてタバコの吸い殻を上回り、最多となった。 歓迎されないこの統計値は、環境保護団体オーシャン・コンサーバンシーが毎年行っている海岸清掃活動(ビーチクリーンアップ)の最新の報告書で明らかになった。2019年の清掃活動では、116カ国の海岸から9400トンを超えるごみが1日で回収された。その数は3250万点にのぼる。 プラスチック包装材は、2002年から2014年の間に米国、ヨーロッパ、中国、インドで生産されたプラスチックの45パーセント近くを占めており、世界のごみの中でも主要な位置を占める。それでも、
ヤギとネズミによって大きく変えられたレドンダ島の自然はかつて再生しないと考えられていた。(PHOTOGRAPH BY ED MARSHALL, REDONDA RESTORATION PROGRAMME) カリブ海西インド諸島に位置するレドンダ島は、周囲を高い断崖に囲まれた小さな火山島だ。島を覆う草むらにはカツオドリやグンカンドリの巣が点在し、その主たちが何十羽も頭上を飛び交うなか、島の固有種であるアノールトカゲの仲間(Anolis nubilis)や体長3cmにも満たないヤモリが、近くの日陰をうろついている。レドンダグラウンドドラゴン(Pholidoscelis atratus)と呼ばれる、体長15センチの希少な黒いトカゲはもっと大胆だ。こちらが数秒間足を止めている間に、スニーカーの上を群れが横切って走っていく。(参考記事:「世界初、立って漕ぐ小舟で大西洋単独横断に成功」) 島の固有種の
大きな耳、ふさふさの尾、ネズミのような歯など、多くの変わった特徴を持つ霊長類のアイアイ。その異常に長い第4指を使って、木の中から昆虫の幼虫をかき出して食べる。(PHOTOGRAPH BY PETE OXFORD, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 米ノースカロライナ州立大学の准教授であるアダム・ハートストーン・ローズ氏は、肘から先の前腕の筋肉を研究している。ともすると見過ごされがちだが、驚くほど精巧にできていて、手指の繊細な動きをコントロールする筋肉だ。これがなければ、モーツァルトのピアノ協奏曲を弾くことはできない。 さらに氏は、様々な霊長類の前腕(前肢)も研究し、異なる種の間でどのような解剖学的違いがあるのかを比較している。そしてこのたび、マダガスカルにすむ霊長類アイアイ(Daubentonia madagascariensis)の6本目の指を発見し、10月21日付けの
イタリア中部にある私設の展示館に飾られているカアテドクス属の恐竜。PHOTOGRAPH BY GABRIELE GALIMBERTI AND JURI DE LUCA 大昔に絶滅した生き物の化石が飾られるのは博物館だけではない。今や、裕福なコレクターたちの自宅やオフィスにも姿を現すようになってきた。 コレクターたちは私蔵する化石について秘密にしたがる。なぜなら古生物の化石を商品として取引することは20年にわたって激論の的になってきたからだ。売るために掘り出された「スー」と呼ばれるティラノサウルスの化石標本は、最終的にはシカゴのフィールド博物館が落札し、収蔵された。しかし840万ドル(約10億円)という価格は、一部の地主たちに一獲千金の夢を抱かせた。 もっとも、一獲千金の夢は現実にならなかった。今やティラノサウルスの標本は市場で供給過剰になっているし、ほかの貴重な標本も値引きを続けなければ買
ロンドニア州のルーズベルト先住民区域で、違法な採鉱作業に使われたブルドーザーを解体する、ブラジルの環境保護機関「IBAMA」から派遣された特別査察グループ。ジャイール・ボルソナロ大統領は、ブラジルアマゾン全域の先住民地区における鉱物の採掘を合法化すると公約しており、広範囲に及ぶ環境破壊と地元コミュニティの分断が懸念されている。(PHOTOGRAPH BY FELIPE FITTIPALDI, NATIONAL GEOGRAPHIC) ブラジル西端部に暮らす孤立部族の保護に取り組む先住民保護活動家が殺害され、アマゾンの先住民や、その保護に携わる人々の間に不安が広がっている。 マクシエル・ペレイラ・ドス・サントス氏は9月6日、ジャヴァリ谷先住民区域近くの街タバティンガの大通りで、バイクの後ろの席に乗った何者かに射殺された。ジャヴァリ谷は、孤立部族が世界で最も多く暮らしている地域だ。(参考記事:
バハマ諸島のニュープロビデンス島沖で、海に浮かぶボートを取り囲むペレスメジロザメ(学名:Carcharhinus perezi)。カリブ海諸国にとって漁業は命綱だ。漁業は重要な食料供給源であり、この産業に従事する人々は14万2000人を超える。(PHOTOGRAPH BY DAVID DOUBILET, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE) 2000年前、ローマ皇帝ウェスパシアヌスは、羊毛の洗浄などに使われた人間の尿に税を課した。息子がこの政策に異議を唱えると、皇帝は金貨を息子の鼻先に掲げて「臭うか?」と尋ねたという。何から得たものであろうと、金は金であるというわけだ。(参考記事:「古代ローマにトイレ税、世界5つのヘンな税」) 尿に価値を見出したウェスパシアヌスなら、きっと優秀な海洋生物学者になれたに違いない。サンゴ礁にとって、尿はまさしく宝だ。サンゴ礁の驚くべき生物
そこからわかったのは、アライグマは世界のかなり広い地域で生息可能ということ、そして、生息に適したエリアはかなり北まで拡大しそうだと、今回の論文の筆頭著者で、パリにあるフランス国立自然史博物館の研究員ビビアン・ルッペ氏は述べる。 ヨーロッパや中央アジア、東アジアの多くの場所で、アライグマはすでに外来種として広がっている。温暖化によって生息域が拡大すれば、在来の生態系に対しさらに大きな被害をもたらすかもしれない。ただし、どのような被害が生じるのかについては、まだよくわかっていない。(参考記事:「地球からの警鐘:日本の外来種」) アライグマ(学名:Procyon lotor)の生息にもっとも適した場所は、川のそばだ。ドイツ語とイタリア語でも、日本語と同じく「洗うクマ」という意味の名 で呼ばれている。 アライグマが初めてドイツに持ちこまれたのは、1930年代のこと。その後、西はスペイン、南はイタリ
中国東部で最近出土した、刻線模様が彫られた親指ほどの大きさの2つの骨片のうちの1つ。これまで東アジアで最古とされていた抽象的な刻線模様よりも、さらに数万年さかのぼる。(PHOTOGRAPH BY FRANCESCO D’ERRICO & LUC DOYON) 今から10万年以上前、現在の中国東部にあたる地域で、ある古代の人類が、動物の骨に模様を彫り込もうと考えた。その彫刻家は、日光にさらされて硬くなった肋骨のかけらを選んで、7本のほぼ平行な線を刻み込み、鮮やかな黄土色の顔料を塗りつけて目立たせた。 この小さな骨片に刻まれた直線が今、古人類学者の間に波紋を広げている。意図的に彫られた抽象的な線としては、東アジアで最古の可能性があるからだ。7月8日付けで学術誌「Antiquity」に発表された論文の内容が確かなら、これまで6万年前とされていた記録が打ち破られたことになる。 彫刻の作者がヒトの系
絶滅したワニ「パカスクス」の想像図。歯の化石の分析により、植物食だったことが明らかになった。(ILLUSTRATION BY JORGE GONZALEZ) 絵本でも漫画でも、ワニの口にはいかにも肉食らしいギザギザの歯が並んでいることが多いが、実際はもう少し違うタイプの歯があると、米ユタ大学の古生物学者キーガン・メルストローム氏は言う。 「それでも、絶滅したクロコダイル型類(Crocodyliform)の歯の多様性にはとうてい及びません」と彼は言う。クロコダイル型類は、現代のワニ(アリゲーターやガビアルを含む)や絶滅種を含むワニ類の大きなグループ。「そのなかには非常に変わった歯を持つものもいました」 このほど、絶滅したワニの仲間16種の歯の化石146本を分析したところ、驚くべき事実が明らかになった。太古のワニは、その進化の歴史の中で少なくとも3回、植物食(草食)になっていたのだ。 6月27
エイベル0399とエイベル0401の合成画像。どちらの銀河団もX線(赤)を放射する高温のプラズマに満たされている。プランク衛星が収集したマイクロ波データ(黄色のもや)は、2つの銀河団を結ぶ物質の広がりを示し、電波望遠鏡ネットワークLOFARからのデータ(青)は、このもやと銀河団を構成する個々の銀河から放射される電波の尾根を示している。(DSS (OPTICAL), XMM-NEWTON SATELLITE (X-RAYS), PLANCK SATELLITE (MICROWAVES), LOFAR (RADIO)) 2つの銀河団を結ぶ「糸」が初めて観測された。 銀河団は銀河がたくさん集まったもので、それぞれの銀河団どうしは「糸」で結ばれて網のような構造になっていると考えられている。 6月7日付け学術誌『サイエンス』に発表された論文によると、今回観測されたのは、地球から10億光年の彼方でゆっ
「700万ドル・シェル・オーシャン・ディスカバリ・Xプライズ」で優勝を手にしたのは、14カ国の海洋科学者が参加した「GEBCO-日本財団」チーム。同チームが作製したSeaKIT(写真)と呼ばれる低コストの無人水上艇には、地球の海底をすばやく視覚化できるクラウドベースのデータ処理システムが搭載されている。(PHOTOGRAPH COURTESY, XPRIZE) 地球の海底地形は、まだ大半が地図になっていない。少なめに見積もったとしても、未知の海底は80パーセントにおよぶという。つまり我々は地形に関して、地球よりも月のほうがよく知っているくらいなのだ。 この状況が、大きく変わりそうだ。非営利組織「Xプライズ財団」は5月31日、海底マッピング技術を競うコンペティション「700万ドル・シェル・オーシャン・ディスカバリ・Xプライズ」の優勝チームを発表した。このコンペティションでは、海底をより安全に
サンゴ礁の小さなギンポの仲間。サンゴ礁には体長5センチに満たない小魚が2800種以上生息している。その大半は、大きさも色鮮やかさもゼリービーンズのようだ。(PHOTOGRAPH BY STEVE DE NEEF, NAT GEO IMAGE COLLECTION) サンゴ礁について、古くから指摘されている謎がある。ごく限られた場所にしかなく、しかも、熱帯の海水は栄養分が乏しいのに、魚類全体の3分の1にも及ぶ魚種がサンゴ礁に暮らしている。その魚を食べている人間は数百万人に上る。いわば熱帯の海のオアシスであるサンゴ礁は、なぜこれほど豊かでいられるのだろうか。(参考記事:「動物大図鑑 サンゴ」) チャールズ・ダーウィンが最初にこのパラドックスに気づいて以来、科学者たちは答えを求めて奮闘してきた。そしてこのたび、カナダ、フランス、オーストラリア、米国の海洋科学者たちは、謎を解く新たなカギを見つけた
モンゴル、ゴビ砂漠のオオミミトビネズミ。初めて映像に収められたのは2007年だ。(PHOTOGRAPH BY VALERIY MALEEV, NATURE PICTURE LIBRARY) ジンバブエのワンゲ国立公園で、草陰からのぞくオオミミギツネ。(PHOTOGRAPH BY ROY TOFT, NAT GEO IMAGE COLLECTION) カラカル(写真はナミビアで飼育されているもの)は、耳をパラボラアンテナのように使って、獲物が立てるかすかな音に集中する。(PHOTOGRAPH BY KARINE AIGNER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
米国に比べればまだ規模は小さいが、日本のホエールウォッチング産業は着実に成長を続けている。(PHOTGRAPH BY DAVID FLEETHAM, NATURE PICTURE LIBRARY) クジラに対する日本人の興味はどうやら、食べることよりも、見ることへと移りつつあるようだ。ナショナル ジオグラフィックは、米国の国際動物福祉基金(IFAW)が調査し、来年発表を予定している世界のホエールウォッチングに関する報告書の内容をいち早く入手した。 日本のホエールウォッチング産業は1980年代から存在するが、近年になって勢いを増している。IFAWの統計によると、2015年までの7年間で、ホエールウォッチングに参加する人の数は4万人以上増加している。IFAWは、参加者の3分の2は、外国人旅行者ではなく、日本の人々と推測している。 新たな観光資源を得たことで、ツアー会社などの収入も増加した。IF
東工大地球生命研究所の藤島皓介さんは、宇宙生物学者として、土星の衛星エンケラドス探査の準備を進めている。 地球の生命の起源の話をさんざんしてきたけれど、ここではもう素直に、藤島さんのことを宇宙の研究者だと考えてよい。 では、生物の専門家である藤島さんが、このような宇宙探査計画で担当する部分はどんなことだろう。 「二つあります。第一に、エンケラドスで何をどれほどの精度で見つけられたら生命がいると言えるかという疑問に答えなくてはなりません。そして、第二に、サンプルの捕集とその後の分析をどうすれば成功させられるかです。複数の軌道計画をトレードオフした結果、現在のベースライン案では、エンケラドスの周回軌道に入らずに、エンケラドスの近くを『フライバイ』、つまり通り過ぎます。このとき探査機とプリュームの間には秒速4キロ以上の相対速度があるため、エンケラドスの海の底から宇宙空間に放出された微粒子に含まれ
コールドウェル夫妻の自宅の裏庭に餌を食べにくる、オスメス両方の特徴をあわせもつショウジョウコウカンチョウ。この鳥が庭のはずれの木の枝にとまったところを、シャーリーさんが台所の窓から撮影した。(Footage provided by Shirley Caldwell) 米国ペンシルベニア州エリー在住のコールドウェル夫妻は、25年前から裏庭に鳥の餌台を置いている。しかし、数週間前の夜明けにアメリカスギの木に止まっていたようなショウジョウコウカンチョウ(猩々紅冠鳥)は、これまで一度も見たことがなかった。その鳥は体の右半分が真紅で、左半分が灰褐色だった。(参考記事:「動物大図鑑:ショウジョウコウカンチョウ」) とはいえ、家から木までは10メートルほど離れていたため、鳥が近くにくるまで自分が見たものに確信がもてなかった。妻のシャーリーさんは、「長年、鳥に餌をやってきましたが、こんな鳥を見たことはなか
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