文中、主人公がタイの屋台で調味料として置かれている「プリッキーヌ」という唐辛子をかじりながら氷の入ったビールを飲むシーンが出てくる。タイ語「プリッキーヌ」は日本語に訳すと「緑の鼠の糞」。小さな緑の唐辛子のその形が鼠の糞に似ているからだ。小説でも「世界一辛い鼠の糞」として紹介されている。 砂糖入りのナンプラーに漬かったプリッキーヌをつまようじで口に放り込む。それをかみ砕くと頭は脈を打ち体は熱を帯び、タイの夜の蒸し暑さと自分とが同化していく。空気と自分とを隔てる皮膚という壁が極限まで薄くなっていくのを感じながら、氷の入ったビールを一気に流し込む。 こんな感じの、最高に美味そうな描写が頭にこびりついて離れない。主人公はそのあとたしか差し歯が取れる。 そういえば前にタイへ行った時の写真を見返していたところ、その「プリッキーヌ」と思われるものが写っているカットがあった。