先達の創作を作品に援用する。その挑戦を続けているのが杉本博司だろう。豊かな教養を根底にもち、妥協のない作品制作を当然とする。そんな厳しい姿勢の一方、サングラスでインタビューを受ける遊び心が彼の身上である。 姫路市立美術館で2022年に「本歌取り」、渋谷区立松濤美術館で昨年「本歌取り 東下り」という展覧会を杉本博司は開催した。 そもそも本歌取りとは、和歌や連歌で、古歌(=本歌)の語句・発想・趣向などを取り入れて作歌し、重層的で複雑な世界を創造する技法のこと。 杉本はかつて文芸誌に「本歌取り」という表題でこんな文章を寄せている。 「およそ人間の営みにおいて作りだされる創造物において真にオリジナルであるということがあり得ようか。そもそも人間そのものの再生産が遺伝子情報を両親から半分ずつ受け継ぐという複写行為の繰り返しではないか。(略)真にオリジナルであることは無から有を生じせしめる行為であり、言