佐々涼子・評「死の「裏方」を知る」 母は十年かけて少しずつ死んでいった。体中の機能が失われていき、やがて口を動かす機能が失われた。口が動かなければ食べられない。ある日、母のからだに直接栄養剤を送り込むための胃瘻の手術をし、その帰りがけに、中華料理屋で母のいない食卓を囲んだ。母が二度と食べることのなかった、あの餃子の味を、私は忘れることができないだろう。 あれは生きながら母を弔う通夜だった。母が少しずつ死に向かう間、私は突き動かされるようにして、濃厚に死の匂いのする現場に入り、『エンジェルフライト』で国際霊柩を、『紙つなげ!』で被災者の再生を描いた。死を間近に感じるのでなければ、弔いの現場など行こうとは思わぬものだ。 では、ノンフィクション作家の井上理津子さんは、何を思い『葬送の仕事師たち』の取材に入ったのだろう。彼女は、葬儀の専門学校、遺体の防腐処理をするエンバーマー、納棺師、湯灌師、火葬