「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」は片岡仁左衛門の与三郎、坂東玉三郎のお富が十八年ぶりの顔合わせ。「見染(みそめ)」「赤間別荘」が付くので、いつもの「源氏店(げんじだな)」での転変のドラマがのみ込みやすい上に引き立つ。仁左衛門の与三郎は前半がいかにも大家の若旦那という優美さ。後半はその残り香をまといつつ、お富への恨み言の声音に悪に転落した身の鬱屈(うっくつ)を濃くにじませる。 玉三郎のお富は匂い立つような色香に加えてしたたかさがあり、無意識のうちに他人の運命を狂わせる存在であることがよくわかる。「見染」での思わず知らず視線がからんでしまう具合から「赤間別荘」の濃厚な色模様まで、二人のイキがぴたりと合って酔わされる。それぞれの華を生かしつつリアルさと様式美とを両立させた名舞台といっていいだろう。片岡市蔵の蝙蝠安(こうもりやす)、河原崎権十郎の和泉屋多左衛門。コロナ禍明けで「見染