蔣兆和 「流民圖」 1943年作 Trois Mille Ans de Peinture Chinoise 南京事件を中国人の眼で見ると、どう見えるか。作家、堀田善衛は、それを小説『時間』(1955)で試みた。大虐殺事件を被害者の眼でみると、どんな光景が現れ、日本人の言動がどう見えたのか、を堀田は描いている。この斬新な企てを、辺見庸さん(以下敬称略)は「目玉の入れ替え」と呼び、堀田の勇気に敬意を表している。 彼は1945年春、27歳のときに上海に渡り、そこで敗戦を体験し、1年間、国民政府に徴用され広報部で働いた。敗戦前に、彼は南京を訪れ、城壁の上から見た紫金山の岩肌の美しさにうたれ、「人間とその歴史の怖ろしさ」を書きたいと思ったという。 『時間』の主人公は中国の知識人、陳英諦(37歳)である。6年間、インドと欧州で学び、帰国して海軍省に勤務。彼には妻子があった。しかし、陳の平穏な日々も、