伊図透のマンガが2冊、同時刊行されました。長編『銃座のウルナ』の1巻目と、短編集『辺境で』です。ともに独創的な仕上がりです。 しかし、じつはそれまで伊図透を知りませんでした。そこでさかぼって、『ミツバチのキス』(全2巻)、『おんさのひびき』(全3巻)、『エイス』(全3巻)というほかの作品を読んで驚嘆し、このマンガ家を知らなかったことを恥じました。どうしてこれほど優れた作家がいままでそんなに話題にならなかったのでしょうか? 不思議です。 まずは『辺境で』から。 表題作は、シベリアあたりと思しい辺境での鉄道建設を題材にした物語で、ロバート・アルドリッチとかリチャード・フライシャーとかサミュエル・フラーといったハリウッドの筋金入りの職人監督を連想させる男性的アクションのタッチが素晴らしい! 主人公の顔までアーネスト・ボーグナインみたいなのです。 巻末の「NO TITLE」も、よく似た顔の主人公が
教養のある人の話がおもしろいのは、幅広い知識を持っており、しかも深く理解しているから。しかし、教養がもてはやされる一方で、「知識は豊富だけれど、話してみると残念な人」も存在する。そう指摘するのは、『教養バカ わかりやすく説明できる人だけが生き残る』(竹内薫著、嵯峨野功一構成、SB新書)の著者です。 こうした人々は、一見教養があるように見えますが、話してみると「おもしろみ」がありません。知識を知っているだけで、ストーリーになっていない。知識をひけらかしているだけの「教養バカ」なのです。(「はじめに」より) だとすれば、教養バカを脱して本当の教養人になるためには、どうしたらいいのでしょうか。そのためのトレーニング方法は、相手に「わかりやすく伝える」ことだけだと著者はいいます。知識を単発で披露するのではなく、話をつくり上げるために知識と知識をつなげる、そんな体験に根ざした「接着剤」をたくさん持っ
最近になって、あちこちで人工知能の話題を目にするようになった。人工知能が発達し、チェスや囲碁で人間のトップにも勝てるほど頭がよくなっている。一般道での自動車の運転ですら、かなりうまくこなせる。そして、こうやっていろんな仕事が人工知能に取ってかわられるようになると、いずれ人間の出番はなくなり、みんな仕事がなくなってしまうんじゃないか、という話もよくきかれる。 かつて産業革命でも同じことが言われたし、インターネットの普及でもそういう議論があったけれど、みんな新しい仕事に移っているじゃないか、と。その一方で、今回はちがうのでは、これまでは人間の決して得意でなかった物理的な強さや速さの分野での競争だった。でも今回は人間の本丸であるはずの知的作業の分野だ。ここで負けたら、人間はもう逃げ場がないぞ! 本書は、この話を経済学者がきちんと考えた本になる。これまでも、人工知能などとの競争を扱った本はマカフィ
90年代後半、バブルが崩壊し日本が本格的にデフレに突入していくと、全国の河川敷や公園にはホームレスの姿が目立って増えていった。しばらくの間、対策らしい対策を何も打たなかった行政も、ゼロ年代に入ると住所をもたない路上のホームレスにも生活保護を支給しはじめ、見かけ上の数は激減していった。2003年には全国に2万5千人いたホームレスも、2015年には6500人と報告された。さすがにこれは少なすぎるのではないかと指摘されているが、全体の数が減っていることは確かだろう。 しかしそういう状況でも、街から河川敷へと追いやられる人々はあいかわらずたくさんいる。この作品の主人公、柳さんもそのひとりだ。ずっと建築現場で働いてきたのだが、現場の事故で体を壊してしまい、あっというまにホームレスになってしまった。いまでは河川敷で、ムスビという一匹の猫と一緒に暮らしている。もうひとりの主人公の木下も、歳はまだ若いのに
ここ最近、自己啓発書に冠せられるタイトルの複雑化︱というより、エクストリーム化が著しい。例えば、昨年7月に発売されるやいなや大反響を呼んだ「可愛いままで年収1000万円」(!)。あるいは直近の刊行物なら「宇宙にお任せするだけで勝手にうまくいく手帳2017」(!!)などなど。書名を眺めているだけでもけっこうなエンターテインメントとして成立しているのが現状だ。 そんな風潮の中、目下売上ランキング上位に輝いているのが小池浩「借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ」(!?)。ツッコミどころ満載のタイトルだが、内容と併せて分析してみるとマーケティング的にも満漢全席であることがわかる。発売からわずか1カ月で6刷という実績は侮れない。 「国内の自己啓発書のトレンドは、大まかに言えば“一発逆転”“口ぐせ”“お任せ”の3つの要素が挙げられます」(書店関係者)。例えば、どん
ゲームなら何度でもリセットしていろんな選択肢を試せるのに、現実の人生はなぜ一回だけなのか。可能性の数だけ世界があってもいいじゃないか。 ……というような認識が世間に広まったためか、時間ループや並行世界を導入した物語が急増。それらの共通項をゲーム的リアリズムと呼んだ東浩紀は、自身も、並行世界を背景とする量子論的な家族小説『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)を書いて三島由紀夫賞を受賞している。 この6月、2冊同時に出た乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』 は、そうした並行世界SFとせつない純愛ストーリーを融合させた最新の例。 背景は、無数の並行世界の実在が証明された未来。テーブルに置いたはずのペンがなくなったり、昨夜話したはずのことを相手が知らなかったり、日ごろ経験する些細な齟齬は、実はちょっとだけ違う並行世界との間を日常的に揺れ動いているせいだ─という発想が面白
41歳の若さで脳梗塞を発症した著者は、働き者のライターだ。休みなしに原稿を仕上げつづけていないと安心できない。鈴木大介『脳が壊れた』を、働きづめでお疲れのみなさんにおすすめしたい。 命は助かったが、リハビリは困難をきわめる。「高次脳機能障害」が残ったからだ。視野の片側を無視してしまったり、感情が抑制できなくなったり。非常につらい状態なのに、故障のありかが見えにくい。 こんな紹介をすると闘病記なのかと思われそうだが、そんな小さなジャンルにはおさまらない。「励まし」や「共感」にもたれかかった凡百の手記より、ずっと志が高い。看護学や医学のはじっこをかすめながら、社会学や文化人類学のほうへ手を伸ばす本だと思う。みごとだ。 困った症状の描き方、事件の記し方がいちいち笑わせる。サービス精神ともいえるが、そもそも著者自身、自分の身におきた試練を百パーセント味わいつくす心意気なのだろう。脳梗塞に至った理由
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