一般的な文脈に乗らない「無意味な」ことが妙に心に残っている。そんなことが自分の日常にもある気がする。『断片的なものの社会学』には、社会学者の岸政彦さんが研究などを通じて出会った、一見無意味に思えるような会話ややりとり、それについての考察が書かれている。 例えば、沖縄の歴史の聞き取りをしているときに、外で取材相手の家の子どもが「犬が死んだ!」と叫ぶのが聞こえた。インタビューされている父親は一瞬だけ反応を見せるが、また何事もなかったようにインタビューに戻っていく。こういう場面は記録には残らない。歴史の文脈にも乗らない。でも、そのまま忘れていっていいものなのかわからない。忘れられない。 あるいは被差別部落で差別をなくす取り組みをしている人たちが、車で移動中に、「あれ、ここ部落じゃない? そうだ、そうだ」みたいに他の部落を指して他人事のように振る舞うシーン。これも文脈に落とし込むのは難しい。単純な