1.共通テスト 世界史A <種別>難問 <問題>1 問6 文章中の空欄〔 エ 〕の都市の歴史について述べたうとえの正誤の組合せとして正しいものを,後の①〜④のうちから一つ選べ。〔 6 〕 (編註:空欄エは南京を指す。) う 太平天国が都を置いた。 え 李自成によって占領された。 ① う−正 え−正 ② う−正 え−誤 ③ う−誤 え−正 ④ う−誤 え−誤 <解答解説> うは基礎知識で正文と判断できるが,えは順王朝の支配領域なんて世界史Bでも習わないし早慶でも出ない。超難問である。順の最大領域は華北に限られるので,えの文は誤文であり,正解は②となる。作問者はおそらく「北京」と「南京」を入れ替えて誤文という極めて安直な発想で作ったと思われるが,こうした正誤判定の作問では入れ替える前後で比較するだけでなく,入れ替えた後の文単体で判断して妥当かどうかを検討する必要がある。本問は検討不十分
昨日の続き。本日は早稲田大をお届けする。入試は7学部で収録した問題は16問であるが,そのうち2つの学部が10問を占めた(教育と商)。昨年もそうだったが,偏りが激しい。 18.早稲田大 文化構想学部 <種別>難問 <問題>2 設問7 下線部Gの事態は(編註:アメリカ大陸にはそれまで存在しなかった感染症が持ち込まれ,ヨーロッパ大陸にはトウモロコシやトマトなどがもたらされた),アメリカ大陸に到達した航海者の名にちなみ,何と呼ばれるか,記述解答用紙の所定欄に記しなさい。 <解答解説> 盲点事項。歴史好きは当たり前に使っている言葉だが,言われてみると高校世界史にはなかった。正解は「コロンブス(の)交換」。なお,新課程の世界史探究の教科書・用語集には記載されるようになった。フライング出題である。 19.早稲田大 文化構想学部(2つめ) <種別>難問 <問題>3 次の史料は,桑原隲蔵『考史遊記』(岩波書
今年も書き上げることができたので公開する。いきなり告知から入るが,もうすぐ4巻が発売する予定なので,お買い求めいただけると幸いです。4巻の校正作業はほぼ終わっているが,この2024年の記事と作業時期が重なったので,今年は少し大変だった。 【速報】突然ですが『絶対に解けない受験世界史4』を出版します! 著者は稲田義智さん@nix_in_desertis です! https://t.co/orMarDPCeo pic.twitter.com/bMYXPPMiss — パブリブ (@publibjp) March 15, 2024 <収録の基準と分類> 基準は例年と同じである。 出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。 悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。 → 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せ
88.荒島岳 深田は石川県大聖寺(現在は加賀市)の出身だが,「母が福井市の出だった関係から,中学(旧制)は隣県の福井中学へ入った」。そのため,荒島岳は深田が中学生の頃から知っていた山だが,実は長らく登っておらず,初めて登ったのは『日本百名山』の執筆から数年前とのことであるから1950年代のことだろう。荒島岳は深田が故郷の山だから選出されたのだと言われがちだが,実は大して登っていない山だったりする。とはいえ,実は深田自身が「もし一つの県から一つの代表的な山を選ぶとしたら,という考えが前から私にあった」として,そこから荒島岳と能郷白山で悩み,荒島岳を県代表とした……と全く隠す気が無く書いている。直接明言した文ではないが,福井県から一つも百名山を選出しないわけにはいかなかったと解釈しうる。 ちょっと面白いのは,中学の頃から麓から立派な山容だと眺めていたことが長々と述べられた後,しかしながら「千五
・インドネシア、婚前交渉犯罪化へ 刑法改正案を可決(ロイター) → 昨年の12月のこと。記事中にある通り「黒魔術、大統領や国家機関への侮辱、国家イデオロギーに反する意見の拡散、無届けの抗議活動を禁止した」という刑法改正の一環。報道が婚前交渉犯罪化の一点に集中しているが,むしろ大統領や国家機関への侮辱辺りの方が民主主義の危機ではないか。「黒魔術」の禁止は意味不明である。ついでに「汚職贈賄罪の刑期短縮」もついてきたそうで,道理のない改正である。「インドネシアの刑法は植民地時代に制定されたもの」だそうだから改正の気運があったのはわかるが,もののついでであまりにやりたい放題である。 → さらにこの国会の出席者が575人のうち18人に過ぎず,オンライン参加等を含めても欠席者が285人に及んだという報道もあった。インドネシアはユドヨノ政権以降に民主主義が定着し始めた印象があったが,実態はこんなものか。
・『「センター試験」を振り返る』(大学入試センター,2020年) (1)から。予告通り,第三部の全年度の実施概要から,世界史A・Bの出題ミスに関する項目だけ拾い上げてみることにした。出題ミスのみで,問い合わせがあったこと等はどうでもいいものが多かったため省略している。こうして並べてみると1980年代前半の共通一次の開始直後は私大のようなミスが頻発しており,ノウハウが蓄積するまでの苦労が忍ばれる。共通一次が創設された理由の一つが「難問・奇問のあふれる大学入試に対する模範を示すこと」であったのだが,とはいえ当時は理想とすべき良問像そのものが固まっておらず,最初期の共通一次は現在で言うところの私大っぽい問題も多く,それも含めての試行錯誤期間だったと振り返ることができよう。 〇1980年の世界史,5 <問題>下線部①〜⑤から誤っている箇所を一つ選べ。【64】 ①7世紀後半に朝鮮半島の統一に成功した
・『「センター試験」を振り返る』(大学入試センター,2020年) 気づいていなかったのだが,令和2年(2020年)12月,翌月に最初の共通テスト本試験を控えたタイミングで,大学入試センターが『センター試験を振り返る』という本を発行していたことに先日気がついた。インターネット上で公開されているので,誰でも閲覧可能である。これがけっこう面白い。以下,気になった点を羅列しておく。長くなったので記事を2つに分け,(2)は明日更新する。 p.45から始まる論考1「ボーダレス化する高大接続」。高大接続の難しさは高校教育と大学教育の大きな違いに起因し,欧米諸国ではその接続期間として予備教育期間がとられる(ただし欧州では進学予備課程として中等教育の末期に,アメリカでは大学学部教育に置かれていてタイミングが異なる)。日本の場合はアメリカの制度に近いものの,実際には学部学科がおおよそ決まった状態で入学するため
本書は並びが現代史から古代史にさかのぼっていくスタイルであるが,後ろの章ほど面白い。20世紀史はグローバルさが自明すぎて,グローバルヒストリーが面白さを発揮できないということだろうかとか考えてしまった。いくつか面白かった章を挙げておく。まず第6章,近世の東部ユーラシアではヨーロッパから伝来した火器を用いた「火薬帝国」が立ち並んだが,18世紀に入ると平和が訪れて火器の地位が低下していった。この17-18世紀に,銃火器を減らす周囲とは対照的に周囲からありったけのマスケット銃を吸収し,庶民にまで普及していった特異な地域がある。ベトナム北部の山岳地帯である。ベトナムの歴代王朝はその地形と武力に苦慮し,なんとか体制に取り込もうとしたが,それに成功したのは最終走者のベトミンだけであった。この山岳の戦闘集団の存在が最終的にディエンビエンフーの戦いに帰結するのだから,長期的な歴史の展開は予測がつかず面白い
数年単位で蓄積されてしまったので,ここらでまとめて放出。 『市民のための世界史』(大阪大学歴史教育研究会編,大阪大学出版会,2014年) 大阪大学の歴史家たちが, ・既存の世界史の概説書は文系,特に文学部の学生や卒業生を主眼としていて「教養課程」の教科書として難しすぎるものが多い ・既存の高校世界史は用語の分量が多すぎることを問題意識として,可能な限り固有名詞を排した教科書を作成したらどうなるかを試したい という目的で制作した世界史の教科書である。そのため,序章でやや長めに歴史学を学ぶ意味や効用について語られている。加えて概念的な歴史用語や基礎的な地理の説明が詳しいのも目的に沿っている。しかし,固有名詞は確かに数が少なくなっているが,マイソール王国のティプ・スルタンやジェニー紡績機のようなものが登場しており,その後の高大連携歴史教育研究会の「歴史系用語精選案」の動きなどを考えるとまだまだ多
今年も無事に公開に至ることができた。協力してくれる方々に感謝を申し上げたい。自分自身も例年より忙しさがやわらいだ2月で,少し書きやすかった。なお,3巻が発売しているので,2020年以前をまとめて読みたい方はこちらをお読みください。 <収録の基準と分類> 基準は例年とほぼ同じである。 出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。 悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。 → 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず,作問者の心情を読み取らせるものは,世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。 奇問:出題の意図が見えない,ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に,歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。 難問:一応歴史の問題ではあるが,受験世界史の範囲を大きく逸脱し,一般の受験
どちらかというと指導者層,または受験が終わった社会人向けの話題である(もちろん高校生・受験生が読んでもよい)と前置きした上で。 受験世界史(社会科,地歴公民)で論述問題が課されるのはなぜか。文章作成能力なら国語や小論文で問えばよいので,地歴公民は全て純粋な知識問題でよいのではないかというのはたまに聞かれる主張である。しかし,それらでは測れない能力があるからこそ,地歴公民にも論述問題はある。ここでは世界史に絞って解説する。本論が世間の議論に資することを期待して。 1.事件や歴史用語を説明させる問題 論述問題として最も多いのは,「◯◯について△△字以内で説明しなさい」というパターンで,○○には特定の事件や歴史用語が入る。たとえば, エンコミエンダ制について説明しなさい(60字程度)。 これは実際に今年の慶應大・経済学部で出た問題を少し改変したものであるが,解答は以下。 「スペインがアメリカ大陸
No.16・17 御岳山/日の出山 〔標高〕929m(御岳山)/902m(日の出山) 〔標高差〕(御岳山山頂まで)御嶽駅から約700m,ケーブルカー麓の滝本駅から約530m,ケーブルカー終点の御岳山駅から約90m/(日の出山)御岳山駅から約60m,二俣尾駅から約670m 〔百名山認定〕無し 〔ヤマノススメ〕10巻 〔県のグレーディング〕無し 〔私的な難易度と感想〕ケーブルカー使用で1A,ロックガーデン回って2A+,麓から歩いて3A,日の出山を縦走して4A+ 難易度を細かく分けたが,バリエーションルートが極めて多いためである。御嶽駅からケーブルカーまでは普通の車道で,歩道が狭い場所があって通りがかかる車がけっこう怖いので,大人しくバスに乗った方が良い。登山道も,道中に歴史を語るキャプションがあったりケーブルカーの真下をくぐれたりで楽しみが無いわけではないが,最後まで完全舗装路で登山道としての
・なぜタリバンはこれほど急進撃しているのか アフガニスタン(BBC) → ターリバーンがアフガニスタンを完全掌握する前の記事で,「もしも政府が各地の部族長を味方につけることができれば、タリバンと政府のどちらも決定的に勝つことも負けることもない、膠着状態が訪れるかもしれない。」「アフガン政府は首都カブールなどの大都市にしがみつき続けるだろう。」といった予測が虚しい。しかし,アフガニスタン政府が敗北した理由は読み取れる。状況はイラクと全く同じで,部族社会と腐敗をなんとかせんことにはどうにもならないのだろう。 >「兵士たちはしばしば、部族的にも家族的にも何のつながりもない地域へ派遣される。」「はびこる腐敗の悪影響を深刻に懸念」 → おそらくアメリカとしては民主主義と近代的な制度が定着すれば自然と部族社会も腐敗もある程度解消されていくと考えているのだろうが,実際には逆で,先に部族社会の解体(=ナシ
受験世界史の企画をお読みの方はご存じの通り,上智大は2020年を最後に一般入試の大部分で地歴公民科目の入試をやめて,共通テストと学部・学科別の独自試験で合否を決める制度となった。とはいえ上智大は学部・学科が非常に多いので本気でこれを実施するのかと半信半疑でいたのだが,2021年の赤本を見るに,本当に実施したので驚いた。しかも1つ1つがけっこう作り込まれていて,なかなか面白かった。たとえば文学部ドイツ文学科であれば,高校世界史の範囲のドイツ史とドイツ文化について論じた現代文の問題が組み合わされたようなもので,これなら確かに意欲と適性をちゃんと測れると思われた。やればできるのになぜ去年までやってなかったのか。 となるとやはり気になるのは神学部である。神学部で学ぶ意欲と適性を測る独自試験ってどうなるのか。募集要項には「キリスト教と聖書の基礎に関する理解力と思考力を問う試験」としか説明が無かった。
『絶対に解けない受験世界史3』の発売記念記事。例年3月にやっている受験世界史悪問・難問・奇問集により,ここ数年の慶應大・法学部の世界史が極悪であることは知られていると思う。しかしながら,あの企画は3月頭までに入手できる試験問題の数が限られているという物理的な制約と,私自身が解いて分析して解答解説を付して友人たちに校正してもらうという時間的な制約により,主要国公立大と早慶上智までしか記事化できていない。それゆえに,それ以外の大学のものは『絶対に解けない受験世界史』の方で初公開という流れになっている。したがって,2・3巻を読んでくれた読者の方はご存じのことだと思うのだが,実のところ近年の私大の世界史の入試問題では明治大の情報コミュニケーション学部も慶應大・法学部に張ってひどい。あまりにもひどいので,ちょっと掘り深めてみることにした。 一番わかりやすい例として,本書に収録される問題の数で見てみる
・【大相撲の不思議】関取の四股名から「川」が消えたって知ってた!? (現代ビジネス) → 記事中に挙げられている近代化で川が環境汚染されてしまったために縁起が悪いとして避けるようになった説は眉唾で,別に理由がありそう。海や山に比べてスケールが小さいということだろうか。 → 余談だが, なんでや徳瀬川おったやろと思ったがちゃんと言及されていて安心した。いまだもってあの人が八百長をやっていたとは信じがたいのだよなぁ。あと,私も他の人のブコメで気づいたことになるが,阿夢露がいたのでこれをカウントすれば2017年までは関取に「川」がいたことになる。これに言及していない本記事は片手落ちではなかろうか。記事末尾に「国技には不似合いな四股名を名乗る外国人力士」と書いているので,このライターは阿夢露などという四股名は眼中になかったのだろう。 ・チグリス・ユーフラテス川が干上がる? 上流のダム建設で流量激減
今日はブログの日らしいので,たまには更新しよう…… ・人口8万人の市長が「ジェンダーギャップ」に目覚めた理由〜兵庫県豊岡市の持続可能なまちづくり(前編)(治部れんげ)(個人 - Yahoo!ニュース) → Uターン・Iターン振興策を取ると,女性は男性よりも若者回復率が低くなるというのは面白い現象だった。ここでは兵庫県豊岡市の事例だが,日本全国的にそうなのか簡単に調べてみると,青森県の研究が見つかったが,やはり女性のUターン率が男性に比べて如実に低い。また,日本どころか世界的に「高度経済成長期には都市部に若年男性が集まりやすいが,先進国では逆に女性が集まりやすい」というデータが出てきて,建設からサービスへの変化がこんなところにも。産業・職業によって男女比が異なること自体がジェンダーギャップがある証拠ではある。ともあれ田舎に帰ると仕事がないのは女性の方が強まる傾向なのだろう。 → その意味で豊
高校世界史深掘りシリーズ。またしても経済史になるが,こういうネタは経済史の方が拾いやすいというのはある。18世紀後半から19世紀前半にかけて,イギリスでは産業革命が起きているが,その前段階として農業革命も起きている。 農業革命とは,狭義には農業技術の革新である。細かく言えば農具の改良や土壌改良手法の確立等もあいまって全般的に改良されたようなのだが,高校世界史上でも取り上げられる最大の革新は,三圃制農業が四輪作農法(ノーフォーク農法)に切り替わったことであった。すなわち,輪作の周期に窒素固定を行うマメ科の植物(の根粒菌)を入れることで地力の回復を早めつつ,家畜用作物も生産することができるようになった。これによって休耕地が消滅し,穀物が増産され,同時に畜産物の肥育も容易になった。近代的混合農業の始まりである。 こうした農法の切り替わりは農村のあり方に波及することになる。イギリスの農村ではそれま
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