●『初恋の悪魔』で、仲野太賀と松岡茉優が居酒屋にいる場面。松岡がサラダの中のトマトを避けている仕草を見た仲野は、「トマトは嫌いですか」ではなく、「トマトソースもダメなんですか」と声をかける。これはちょっとした工夫なのだが、この一ひねりがあるのとないのとでは全然違う。それに対し松岡は「トマトソースはうまい」と言う。これにより松岡は「トマトが嫌いだ」という言葉を発することなく、しかし実質的には「トマトは嫌いなんですか」「そう、嫌いだ」と同じ意味のやり取りがなされることになる。 つまり、会話の一回のやり取りのなかに、「トマトは嫌い」「トマトソースは好き」という二本の線が流れていることになる。ここでは、トマトの話はしていない(トマトソースの話しかしていない)にもかかわらず、話題になっていないものの方(トマト)についての情報が交換される(まさに「目に見えるものは偽物、目に見えないものが本物」だ)。