現代にいたるまでのドイツを中心とした社会思想を振り返るうえで、カントから出発するのはきわめて妥当なことだと思われる。カントが1795年に『永遠平和のために』で提起した「永遠平和」をめぐる議論は、20世紀後半から現在にいたるまで、大きな影響を与えているからだ。実際、私たちがこれからの世界の理想的なあり方について構想するとき、カントの「永遠平和」という理念は、指針として比類のないものだろう。現在、種々の困難を抱えながら進められているEU、ヨーロッパ連合の取り組みを思想的に導いているものも、まさしくこのカント的理念なのである。 とはいえ、まさしくカント以降の歴史に照らしてみるとき、カントの永遠平和という理念がたいへん皮肉な意味合いを帯びてくることも事実ではないだろうか。カント以降、およそ平和とは縁遠い二百数十年の歴史が続いたのであり、それはいまも変わらないからだ。永遠の平和どころか永遠の戦争と
表現の自由を脅すもの (角川選書) 作者: ジョナサンローチ,Jonathan Rauch,飯坂良明出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1996/09メディア: 単行本 クリック: 59回この商品を含むブログ (22件) を見る 公共的批判の原理 id:takanorikidoから読むようにすすめられた本。現在は絶版のようだけど、図書館で借りましたにゃ。いろいろと興味深かったし、あとあと絡んでくる論点も多そうなので、先に紹介しておきますにゃ。 まず、この書籍で目指されている方向性は、科学における学問共同体をモデルにした公共圏構築なのだと考えられますにゃ。ローチ(筆者)のいう「自由科学の社会、批判的社会」とは「お互いの誤りを探す人々の共同体(P105)」なのですにゃ。 「こうした懐疑論的倫理の台頭とその最後的勝利ということは、一体何がそんなに重要なのであろうか。その答えはこうである。懐疑哲
動物からの倫理学入門 作者: 伊勢田哲治出版社/メーカー: 名古屋大学出版会発売日: 2008/11/20メディア: 単行本購入: 16人 クリック: 209回この商品を含むブログ (54件) を見る 科学哲学の啓蒙書や論理的思考の指南書などで好評を得ている著者が*1、「なぜ動物は殺してよいのか」「動物に人間と同じ権利が認められないのはなぜか」などの問いを含む動物解放論を中心とした応用倫理学的問題系について語りながら、倫理学そのもの(メタ倫理学・規範倫理学)の展開と分布を説いていく入門書。扱われている範囲は広大であるが、文章は平易であり、文献案内も充実している。 すなわち良書である。が、つまらない。倫理学への導入を助ける一冊として、一般的には迷い無く推薦できる水準と言えようが、私にとっては心底退屈な本だった。序盤から既に辛く、中途半端な知識を補完するために頑張って通読しようと志していたのだ
→紀伊國屋書店で購入 「戦後日本の「ねじれ」を解く鍵がここにある!」「欧州の「戦後」、すなわち第一次大戦後ドイツで展開された戦没者崇拝をめぐる左右勢力の攻防。靖国問題を読み解くためにも欠かせない一冊」。本書の帯に、こう書かれているが、その意味がわかり本書を手に取って理解しようとする日本人は、残念ながらそれほど多くないだろう。 訳者、宮武実知子は、「訳者解題」で、つぎのように本書を読む時間と空間の背景によって、そのとらえ方が異なってくることを述べている。「原書の初版は一九九〇年である。ドイツ語訳は一九九三年、東西ドイツが統合されて間もない時期に刊行され、ドイツ語訳者は、冷戦終結後の気分を反映させた自分の文章を随所に挿入していた。だが同じ頃に日本語訳が出ていても、今[二〇〇二年]ほどの感慨をもって読めなかったかもしれない。「戦後」五〇周年頃から盛んになった歴史教科書論争は、二〇〇一年夏に決行さ
日直のボウシータです。前回に続き、共感をめぐって。 前回書いたように、本を読んでその本に「共感できなかった」とき、それだけを理由にその本を「ダメな本」「自分にとって意味のない本」と見なしてしまう人が、世のなかにはたくさんいる。これはとても恐ろしいことだ。 誤解されると困るので、ここははっきりしておこう。 人はだれでも、本に共感できる部分があればそれは嬉しいものだ。私だって鬼ではない。 私はここで、「本に共感を求める人や行為」を批判しているのではない。 「共感できなかった本を、それを理由につまらない本と決めつけてしまう人や行為」が問題だと言っているのだ。 つまり、「共感できるとうれしい」は人情として当然だけど、「共感できないとムカつく」は勿体ないことしてるんじゃないか、という話なのです。 本、とくに小説や漫画のような物語に「共感できなかった」。 その一時をもってその小説・漫画を「ダメな小説・
捨吉は女学校の英語教師になる。そこで、彼と同い年の勝子という教え子に惚れてしまう。勝子はそんなに成績が良いほうではなく、どちらかといえば目立たない少女だった。捨吉は彼女に対して思いを告げることもないのだが、その目つきや態度から、同級の他の生徒にはとっくにばれていて、そのことを同性の友人から教えられる。 眠りがたい夜が続いた。どうかすると二晩も三晩も全く眠らなかった。例の小座敷に置いた机の上には、生徒から預った作文が載せてあった。その中には最近に勝子が書いた文章も入っていた。読んで見ると面白くもおかしくもない文章が何事(なんに)も知らない鳩のような胸から唯やすらかに流れて来ている。捨吉はその作文が真赤になるほど朱で直して見て、独りで黙っている心を耐(こら)えた。 島崎藤村 『桜の実の熟する時』 十一 捨吉は教え子への片思いの恋に悩んだ挙句、職を捨て、信仰を捨て、少数の友人以外誰にも行く先を告
スラヴォイ・ジジェクについての本、トニー・マイヤーズ著『スラヴォイ・ジジェク』の第六章「なぜ人種差別は常に幻想なのか」を中心に、ジジェクの人種差別をめぐる分析についてメモしておきたい。 人種差別は「汝なにを欲するのか?」(Che vuoi?)という問いかけではじまる、とジジェクは主張する、とマイヤーズは語る。「汝は我にかくのごとく語る。だがそれによって汝は何を欲するのか。汝の目指すところは何か」。 ジジェクはこの「汝何を欲するか」について、例のごとく、ヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ』を引き合いに出し例証する。 ロシアの秘密諜報局を攪乱するために、CIAはジョージ・カプランと名の、実際には存在しない諜報員をでっちあげ、彼の名を使ってホテルを予約し、彼の名で電話をし、彼の名で航空券を購入する、といった細工をする。すべてはロシアの諜報局に、カプランが実在しているように信じさせるためである
そろそろ寝なきゃいけない時間なので手短に書きたいことだけ書いておく。 このところのブックオフ株買収騒動で、なんやら「流通の健全化」という言葉を目にするようになり、その割にブックオフからのペイバックと自由価格本のことしかクローズアップされていないんだが。 本当に中古を巻き込んで流通を健全化しようと思うんだったら、あれだろ、出版業界は今まで、新古書店のせいで本売れないっていうスキームっつうか思い込みっつうかできたわけだろ? で、その割には、具体的な本の動きってのをつかんでいるのが誰一人としていない状況だったわけだ。どのくらいの本が、どのくらいの期間で中古として流通するのか。 じゃあ、RFIDで実際には中古流通を含めた本の流れがどのようになっているのか把握することで、刷る側の無駄を減らすことが可能なんじゃないか、ってことじゃないの? プライバシーの保護は大前提な。 強制的なブックオフからのリター
文学は社会が隠蔽すべき猥雑で危険な思想をあたかもそうではないかのように見せかけつつ、公然に晒す営みである。日本の、物語の出で来初めの祖なる「竹取物語」は天皇とその体制を愚弄する笑話であった。日本の歴史を俯瞰して最高の文学であるとされる「源氏物語」は天皇の愛人を近親相姦で孕ませ、それで足りず少女を和姦に見立てて姦通する物語である。 同様に村上春樹の「1Q84」(book1参照・book2参照)の2巻までは、17歳の少女を29歳の男が和姦に見立たて姦通する、「犯罪」の物語である。また国家に収納されない暴力によって人々が強い絆で結ばれていく、極めて反社会的な物語でもある。それが、そう読めないなら、文学は成功している。あたかも、カルトの信者がその教義のなかに居て世界の真実と善に疑念を持たないように。いや、私は間違っている。「1Q84」は、私たちの社会がその真実と善に疑念を持ち得ないような閉塞なカル
これぞ最も優れた電子ペーパーの活用法なのかもしれません… まだコンセプトデザインでしかないのですが、E-Inkの電子ペーパーディスプレイを採用した「Braille E-Book」は、ディスプレイ表面が電気活性ポリマー素材でできていて、電気が流れるごとに、点字が浮き上がってくる仕様になっているとのことですよ。 いろんな書籍が点字版でも入手できるようになってきているとはいえ、そのかさばるサイズや、点字プリントを用意する手間などから、あらゆる本や雑誌が、次々と点字化されているわけではないですよね。 でも、このBraille E-Bookが普及して、手軽に点字版の電子ブックを出版し、コンパクトサイズで携帯して、視覚障害者の読書の幅が広がること…。こんなすばらしいことってないんじゃないでしょうか。すでにモニター調査では、現行の「Kindle 2」などに搭載されるテキスト読み上げ機能なんかよりも、よっ
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く