関口存男という人を知っているだろうか。たぶん、今の若い人は全く知らないだろうし、僕と同年輩であっても知っている人は少ないだろう。昭和の初期から戦後にかけて、ドイツ語の教科書や参考書、講座物をたくさん出版し、今は廃刊してしまった『基礎ドイツ語』という雑誌を出し、一時期の日本のドイツ語教育界をリードした人だった。彼は、死ぬまで『冠詞』という3000ページを超す研究書を執筆していた。その学問はあまりに孤高で、それを継ぐ人はいなかったが、ドイツ語教育法については、しばらくの間(たぶん、1990年代半ばくらいまでは)信奉者が大勢いた。 その関口存男(「つぎお」と読む)が最初にドイツ語を勉強したときの話が、非常に印象的だった。うろ覚えで創作が入っているかもしれないが、次のような話だった。彼は、たぶん中学生くらいに当たるのだろう、陸軍幼年学校でドイツを学び始めた。文字と発音を学んで辞書が読めるようになっ