こんな話がございます。 羽州米沢の領主上杉家に、古刀が一振りございまして。 その名を「波の白雪」、又の名を「捨丸(すてまる)」ト申しますが。 持ち主の心映えを映す鏡トモいう、至極の名刀でございます。 かつて上杉家にてお家騒動が起きた際は。 刀身が赤く染まったトモ申します。 妖刀ト申すべきかもしれませんナ。 さて、木曽山中、切岸(きりぎし)の在に。 治兵衛ト申す百姓がございまして。 この者に年の離れた二人の倅がございました。 兄は治太郎、弟は治三郎。 兄の治太郎は幼いころから勝手気まま。 おまけに手癖が悪いときております。 十六の年に勘当されて村を出ていきまして。 それっきり行方知れずでございます。 一方の治三郎は、これはまじめで働き者でございます。 父母に孝養を尽くし、近所の人にも愛想がいい。 かてて加えて眉目秀麗の美男子ときておりますので。 誰からも好かれ、二親も大層自慢にしておりました
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