こんな話がございます。 有名な累ヶ淵(かさねがふち)のお話でございます。 下総国岡田郡羽生村の、絹川のほとりの集落に。 与右衛門ト申す百姓が住んでおりました。 この与右衛門には娘が一人おりまして。 名を累(るい)ト申しましたが。 実名で呼ぶ者は誰もいない。 村人たちはもっぱら、「かさね」ト呼んでいる。 どうして、かさねト呼ばれるのか。 そのわけはおいおいご説明いたしますが。 「るい」が「かさね」ト呼ばれるそのわけに。 このお話の恐ろしさが秘められているト申せます。 さて、この累(かさね)には難点がございまして。 それは、性根が捻じ曲がっていることでございます。 村人たちはみな、この女を嫌っている。 どうして、そんなに心が醜いのかト申しますト。 そもそも、器量が醜いからで。 顔が捻じ曲がっているのだから、致し方がない。 ト、人々はそう考えている。 実の父親の与右衛門も、我が娘ながら累が憎くて