急進的プロレタリア作家の先鋒(せんぽう)として特高に検挙され、築地署で拷問のすえ獄死した小林多喜二。数え31歳の若さだった 神奈川県の七沢温泉郷にある老舗旅館「福元館」には決して口外してはならない過去があった。特高警察の追っ手が迫るプロレタリア作家、小林多喜二を宿の離れにかくまったことである。長年伏せられていた過去がなぜ明るみに出たのか――。それを知る「多喜二の宿」のおかみに会いに行ったら、壮絶な多喜二の逃亡生活が浮かび上がってきた。【倉岡一樹】 小田急線の快速急行で新宿から1時間弱。同県厚木市のターミナル駅・本厚木の街は活気がある。しかしバスで30分も行くと風景が一変し、山が目前に迫る。 緑深い温泉郷にある創業150年超の老舗 七沢温泉入口バス停から緑の深い山里を20分ほど歩くと、七沢温泉郷に着いた。丹沢山地の東のふもと、温泉郷の入り口にある宿である。創業は1856年、歴史は150年を超