山靴の画文ヤ 辻まことのこと [著]駒村吉重 辻まこと。この人の著書や絵やイラストの原画、あるいは肉筆原稿などは、古書界でべらぼうに高価である。熱烈なファンが多いということである。亡くなってから、一挙に人気が出て、現在に続いている。何がかくも魅了するのか。そもそも辻まことは、何者であるか。誰にも師事せず、何のグループにも属さず、独自の画境を開いた絵師である。主として、山の絵を描いた。 一方、不思議な語り口の名文を書いた。肩書をつければ画家であり随筆家だが、一概にそう断じられないものが、この人にはある。言葉に表せないそれが辻まことの魅力なのかも知れない。 そのあたりを解明したのが本書で、わかりやすい辻まこと伝であり、辻まこと論である。私たちがまず彼に注目するのは、その生い立ちだろう。 ダダイストの辻潤と、女性解放運動家・伊藤野枝の長男に生まれた。三歳の時、母は離縁し、無政府主義者・大杉栄と再