デイヴィッドの物語 [著]ゾーイ・ウィカム 舞台は、ネルソン・マンデラ釈放後の1991年の南アフリカ共和国である。おそらくこの国ほど文学が国民の〈声〉となることが困難な土地はないだろう。長年にわたって人種隔離(アパルトヘイト)政策で国民が深く分断されてきたからだ。 しかも、白人支配層から差別され抑圧されていた黒人たちの闘争と解放の物語を描けば、それがナショナル・ヒストリーとなって一件落着とはいかない。南アには白人と黒人だけではなく、「カラード」という混血層が存在するからだ。この人々の〈歴史=物語〉を、アパルトヘイト以降の南ア文学は、どのように描けばよいのか? 本書は、「グリクワ」と呼ばれる、先住民とヨーロッパ系移民との混血層出身の主人公デイヴィッドのルーツ探しの物語だとひとまず言える。彼は反アパルトヘイト運動の闘士であり、妻子ある身ながら、活動の中で出会った女性闘士ダルシーが忘れられない。
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