ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (67)

  • 低予算映画の王が語る、映画のすべての側面に関わってきた人生──『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』 - 基本読書

    私はいかにハリウッドで100映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか (ハヤカワ文庫NF) 作者:ロジャー・コーマン,ジム・ジェローム早川書房Amazonこの『私はいかにハリウッドで100映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』は低予算映画の王、B級映画の帝王などと呼ばれたロジャー・コーマンによる自伝的一冊だ(ジム・ジェロームとの共著)。もともと単行で出ていたものが、今回文庫で復刊された(2024年にコーマンが亡くなったのも関係しているのだろう)。 彼は脚家として映画業界でのキャリアをスタートさせ、その後映画プロデューサー・脚家・監督、そして制作・配給まで会社まで立ち上げ、利益を上げ続けた。彼の映画製作の特徴は「とにかく早く、安い、そのわりにおもしろい」という点にある。書には自伝的な要素だけじゃなく、彼の周辺にいた様々な人へのインタビュー文章も含まれている

    低予算映画の王が語る、映画のすべての側面に関わってきた人生──『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』 - 基本読書
  • 高野秀行の最新作は酒でほぼすべての栄養をまかなう民族に迫る!──『酒を主食とする人々: エチオピアの科学的秘境を旅する』 - 基本読書

    酒を主とする人々 作者:高野秀行の雑誌社Amazonこの『酒を主とする人々』は、数々の冒険・探検ノンフィクション(だけじゃないが)を世に送り出してきた高野秀行の最新刊だ。今回のテーマは、エチオピア南部に存在す、朝・昼・晩酒を飲んで──というか「べて」暮らし、それ以外のものはほとんどべないし飲まないという、酒を主とする人々についての調査・探検である。 この酒を主とする人々については、砂野唯による『酒をべる』という先行書がある。砂野氏は10年以上この土地に通って調査を行っており、京都大学大学院で学び、博士号を取得した職の生態人類学者である。そのによれば、エチオピア南部のデラシャという民族は栄養の大部分をパルショータと呼ばれる酒から得ていて、アルコール度数にして3〜4%くらいのこの酒を一日5リットルも飲むのだという。 それを読んだ高野さんは、実際に自分もデラシャの酒飲み生活を

    高野秀行の最新作は酒でほぼすべての栄養をまかなう民族に迫る!──『酒を主食とする人々: エチオピアの科学的秘境を旅する』 - 基本読書
  • 《三体》の劉慈欣による、現時点での最新作を含む、最新&傑作短篇集──『時間移民』 - 基本読書

    時間移民 劉慈欣短篇集Ⅱ 作者:劉 慈欣早川書房Amazonこの『時間移民』は、『円』に続く劉慈欣のSF短篇集だ(早川書房から刊行のものとしては)。収録作は13篇で、90年代に書かれた作品から、2018年発表の現時点では最新作となる短篇まで幅広くおさめられている。劉慈欣の短篇が長篇に負けず劣らずおもしろいのはKADOKAWAの二冊を含む短篇群でよくわかっていたつもりだったが、作を読んであらためて劉慈欣ってやっぱ短篇もうめえなあと驚くことになった。 ちなみに、KADOKAWAの二冊と合わせて、劉慈欣の全短篇はこれで全部訳されているらしい。四冊読むだけで劉慈欣の全短篇を読んだといえるのだから、比較的追いつきやすい作家といえるだろう。短篇集としては『円』の続きにあたるので、順番を気にするのであれば『円』から読むべきだろうが、別に相互に繋がりのある内容があったりするわけではないので、作から劉慈

    《三体》の劉慈欣による、現時点での最新作を含む、最新&傑作短篇集──『時間移民』 - 基本読書
  • 2024年に読んでおもしろかった本を一気に紹介する - 基本読書

    今年(2024年)おもしろかったを一気に紹介していこうかと。今年は特に8月以降はバタバタしていてあまりブログが更新できなかったのが心残りだけれども、それはそれとして良いがSFでもノンフィクションでもたくさん刊行された年だった。年末年始も寒くなりそうなので、よかったらここで紹介したをお供にしてください。 国内SFを紹介する 藤井太洋『マン・カインド』 春暮康一『一億年のテレスコープ』 宮西建礼『銀河風帆走』 田中空『未来経過観測員』 間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』 市川春子『宝石の国海外SFを紹介する 韓松『無限病院』 P・ジェリ・クラーク『精霊を統べる者』 ベッキー・チェンバーズ『ロボットとわたしの不思議な旅』 ラヴィ・ティドハー『ロボットの夢の都市』 まずサイエンスノンフィクション以外のノンフィクションを紹介する。 ハリー・パーカー『ハイブリッド・ヒューマンたち』 V林田

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  • 傑作漫画がついに完結したので、そのSF的な魅力と共に振り返る──『宝石の国』 - 基本読書

    宝石の国(13) (アフタヌーンコミックス) 作者:市川春子講談社Amazon先日『宝石の国』が全13巻でついに完結した。もともと『虫と歌』や『25時のバカンス』といった短篇集で、SF・ファンタジー短篇の名手として知られていた市川春子の長篇だ〜とわくわくと読み始めた日から随分と長い月日が経ったものだ。 宝石たちが人型となって織りなす美しくもほんわかする漫画だなあ、というファーストインプレッションから物語は次第に──特に主人公のフォスフォフィライトにとって──陰りをみせ、これはどこまでいってしまうのか……とハラハラ・ドキドキしながら中盤以降見守り、オレンジによるアニメーションは3Dアニメの最前線を体験させてくれる素晴らしいものであり、漫画の終盤はそのヴィジョンに圧倒され──と、長い連載期間を通して様々な感情を体験させてくれる作品だった。 普段あまり漫画については書評を書かないのだが、歴史に残

    傑作漫画がついに完結したので、そのSF的な魅力と共に振り返る──『宝石の国』 - 基本読書
  • 世界初のヨット無寄港無補給世界一周に挑んだ男たちの衝撃の実話──『狂人たちの世界一周』 - 基本読書

    狂人たちの世界一周 作者:ピーター・ニコルス国書刊行会Amazon先日テレビをみていたらヨットでの単独無寄港無補給で世界一周を行う「ヴァンデ・グローブ」(今年は11月10日からスタートする)の解説を行っていた。現代ではテクノロジーが進歩しているの30日ぐらいで完走できるのかなと軽く思っていたのだが、これまで完走できたのは全部で114人しかいないのだという。*1 かかった日数は1989-90年にかけて行われた第一回大会が109日で、2020年-21年で行われた大会では80日というから、現代技術をもってしても過酷なレースなのは間違いない。それもある程度の経験や実力を証明してからでないと出場できない(40人しか出場不可)でこの速度&完走率なのだ。とても自分でやりたいとは思えない。 ただ、1989年の「ヴァンデ・グローブ」よりも前から単独無寄港無補給の世界一周レースは行われていた。それが、サンデー

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  • 『三体』の劉慈欣と並び称される作家・韓松による超ド級のSF長篇──『無限病院』 - 基本読書

    無限病院 医院 作者:韓 松早川書房Amazonこの『無限病院』は、中国SF四天王の一角にして『三体』の劉慈欣と並び称される韓松による〈医院〉三部作の開幕篇だ。帯の惹句には劉慈欣が『中国SFをピラミッドとするならば、私が書くような二次元のSFはその土台、韓松が書く三次元のSFはその頂点だ。』と寄せていて、読み始める前からハードルは上がりに上がっていた。 それが実際読み始めると冒頭130ページほどは正直いって何を言っているのかよくわからず、そもそも世界はおかしいのだが、同時におかしな登場人物たちが理屈が通るような通らぬようなことをばらばらに語っている。冒頭は不条理のカフカか幻覚のディックかといった間をふらふらとさまよいつつ、次第に物語は世における医療と未来を問う医療SFと化し、そのままSF的に展開するのかと思いきや、中盤以降は突然村上春樹的なメタファーとセックスに溢れた世界に突入し──と、

    『三体』の劉慈欣と並び称される作家・韓松による超ド級のSF長篇──『無限病院』 - 基本読書
  • 星雲賞受賞作にして藤井太洋のあらたなる代表作といっても過言ではない、未来の戦争を描き出した長篇SF!──『マン・カインド』 - 基本読書

    マン・カインド 作者:藤井 太洋早川書房Amazonこの『マン・カインド』は、至近未来ー近未来を主な舞台に選び、現実の社会情勢や技術の延長線上で様々な短篇・長篇を発表してきた作家、藤井太洋の最新長篇だ。最新とはいっても作はSFマガジンで2017年〜21年まで連載しており、翌年の星雲賞(日SF賞で、SF大会の参加者の投票で決定される)の長篇部門を受賞している。 つまり連載当時から高い評価を受けていたわけだが、なぜ単行化が今日まで伸びたのか? といえば理由は僕も何も知らないが、単純に忙しかったのか、もしくは連載版に比べて大幅に加筆修正をしたそうなので、「より完璧な」形を目指すのに時間がかかったのだろう。そんなこんなで期間があいたこともあって、連載版で読んではいるものの初読のような気持ちで読み始めたのだが、いやーこれがおもしろかった! 作の舞台は2040年代の未来。この世界ではAIドロ

    星雲賞受賞作にして藤井太洋のあらたなる代表作といっても過言ではない、未来の戦争を描き出した長篇SF!──『マン・カインド』 - 基本読書
  • 哺乳類の歴史をたどることで、われわれ(人間)の本質へと迫る傑作ノンフィクション──『哺乳類の興隆史──恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで』 - 基本読書

    哺乳類の興隆史――恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで みすず書房Amazonこの『哺乳類の興隆史』は、その名の通り哺乳類の歴史を追った一冊である。今地球上では、クジラや犬ややカンガルーや人間など、数多くの哺乳類が地上で、海で、繁栄している。その数なんと6000種類以上だ。昆虫などと比べれば少ないが、それでもけっこうな数とはいえる。しかし、歴史を振り返ればより多様な──現代の地球環境からすれば想像もつかないような──哺乳類たちが存在していた。 毛むくじゃらの巨大なゾウもいたし、バカでかい枝角を持ったシカも、車ほどの大きさのアルマジロもいた。短い後肢と長い前肢でウマとゴリラをかけ合わせたような体だったカリコテリウム類もいたし、大型化する前のミニチュアプードルほどの大きさのゾウがいた時代もあった。哺乳類は現代のものよりも小型だった時代も大型だった時代もある。それは、周辺の環境や競合の存在によ

    哺乳類の歴史をたどることで、われわれ(人間)の本質へと迫る傑作ノンフィクション──『哺乳類の興隆史──恐竜の陰を出て、新たな覇者になるまで』 - 基本読書
  • SF小説って読み通すのに労力がいるよね - 基本読書

    qianchong.hatenablog.com こんな記事を読んだ。記事内で当ブログに言及していただいており通知が飛んできたので読んだのだけれども、内容的には「SF映画AI技術系のも大好きなのに、SF小説は最後まで読み通せないものが多い」ということで、なぜなのだろう、老いなのだろうか、と疑問を呈している。率直な感覚が綴られた、良い記事だ。 SFって読み通すのに労力がいるよね SF小説を読んでいる方の人間である僕にとっても「わかる」と頷くところが多い記事だった。SF小説って、ブログ筆者の方も次のように書いているけれど(『SF小説というものは、類まれなる想像力でこれまでに我々が見たことも聞いたこともないような世界を紡ぎ出すところがその真骨頂だと思います。でもおそらく私は、その想像力が紡ぎ出す世界に自らの想像力が追いついていかないのでしょう。』)、想像力が追いつくかどうか以前に「読むのに

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  • 早川書房の3000作品以上が最大50%割引の電子書籍セールがきたので、新作SF・ノンフィクションを中心にオススメを紹介する - 基本読書

    プライムデーに合わせて恒例となっている早川書房の50%割引のセールがきているので、今回も一年以内に刊行された新作SF・ノンフィクションを中心に紹介していこうかと。セール期間は2024年6月25日〜7月17日までで、セール対象は2023年12月までの作品になり、直近半年についてはまた次回。 amzn.to SF小説のおすすめを紹介する。 白亜紀往事 作者:劉 慈欣早川書房Amazonめぼしいものをみていたが今回は特にSFが豊作だ。目玉の一つは、『三体』の劉慈欣による中篇相当の作品『白亜紀往事』。物語の舞台は白亜紀末期、独自に知性を発達させた大きな恐竜と、その反対に小さな生き物の蟻、二者の協力関係を主軸に描き出していく。恐竜は初歩的な言語を使いこなすなど知性が高いが、細かな作業は不得意であり、その弱点を蟻が補うことで、文明は相互発展していくのである。 最初両者の関係は蟻が恐竜の歯を掃除するよう

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  • どうすれば相手の意見を変えられるのか──『エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』 - 基本読書

    エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか? 作者:リー・マッキンタイア国書刊行会Amazonこの『エビデンスを嫌う人たち』は、『「科学的に正しい」とは何か』の邦訳が先日刊行された気鋭の哲学者リー・マッキンタイアによる「科学否定論者を説得するための方法」についての一冊である。科学否定論者とは、たとえば人為的な気候変動は起こっていないと主張する気候変動否定者に、反ワクチン、反コロナ、果てには地球は平面だと主張する地球平面説を支持している人らのことを指している。 こうした科学否定論者に共通点は存在するのか。また、彼らにエビデンスを提供することでその考えを変えることができるのか。エビデンスを提供するといっても、どのように提供するのが最も効果的なのか。エビデンスで人の意見が変えられないのだとしたら、他に変える方法はあるのかを、様々な研究をもとにして紹介する──だけでなく、

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  • 「正常な忘却」は決して悪いことではない──『忘却の効用: 「忘れること」で脳は何を得るのか』 - 基本読書

    忘却の効用: 「忘れること」で脳は何を得るのか 作者:スコット・A・スモール白揚社Amazon的に記憶力が良いことはこの社会を生き延びていくにあたって「良い」ことだとされている。記憶力を高めたいと思わない人がいるだろうか? 認知症でもないのに忘れっぽかったり覚えが悪かったりすると、心配されることもあるだろう。しかし、「忘却する」ことは脳にあらかじめ用意されている、とても有益な機能でもある。 書『忘却の効用』はコロンビア大学の神経精神科学教授であるスコット・モールが、忘却の利点について解説した一冊だ。記憶力が良い人、何もかも忘れない人(時折、そういう人がいるのだ)にも良い点はあるが、そうであるがゆえのデメリットも存在する。僕も人に呆れられるほど忘れっぽい方で、もう少し記憶力がよければなあと思う局面も多い(たとえばトークイベントで昔読んだの話をしようとしても全然内容を思い出せないと

    「正常な忘却」は決して悪いことではない──『忘却の効用: 「忘れること」で脳は何を得るのか』 - 基本読書
  • 原作《三体》三部作にたいする大胆な再構成を試み、芯を同じくした別物として生まれ変わったNetflix版──『三体』 - 基本読書

    www.netflix.com 世界累計2900万部、日中国SFブームを引き起こすきっかけになった劉慈欣による壮大なSF長篇《三体》三部作。そのNetflixドラマ版が先日公開された。エピソード数は全部で8話で、原作(第二部、第三部は上下巻)の分量のことを思えば8話でその物語が全部語り尽くせるわけもないから、ドラマ版は原作の途中までになる。 で、SF超大作ドラマだし原作も好きだしですぐに観てみたのだけど、これが大変おもしろかった。原作とは大きく変わっている部分も多いが芯はブレずに残っていて、たしかに『三体』を観たという感触が強く残る。たとえば、原作では冒頭に配置され、作中の重要な人物が人類に絶望するきっかけを与える中国の文革のシーンも、Netflix版の前に公開済みのテンセント版とは違ってきっちりと冒頭で描かれている。 物語の大まかな流れは基的に同一だし、ガジェットや重要な出来事もそ

    原作《三体》三部作にたいする大胆な再構成を試み、芯を同じくした別物として生まれ変わったNetflix版──『三体』 - 基本読書
  • 『タテの国』の著者による、100年ごとに5万年後の未来までを観測するド真ん中で壮大な規模のSF長篇──『未来経過観測員』 - 基本読書

    未来経過観測員 (角川書店単行) 作者:田中 空KADOKAWAAmazonこの『未来経過観測員』は、縦読みならではの物語を構築し次々と明らかになる世界の真の姿、無限構造の物語を描きだしてみせた漫画『タテの国』や宇宙をさまよい、偶然出会った無人の宇宙船同士で元素を奪い合う闘争を描いた短篇『さいごの宇宙船』など格的なSF漫画を次々と発表してきた田中空のはじめての小説作品だ。 もともと表題作の『未来経過観測員』がカクヨムにて掲載され人気となっていた。書はそこに短篇「ボディーアーマーと夏目漱石」が書き下ろし&追加された一冊になる。もともと『タテの国』などの作品を読んで今どき珍しいぐらいにド直球に「世界の真の姿」「宇宙の果ての果て」、「世界の終わり」に挑みかかるような作家で(そういう意味でいうと、タイプとしては劉慈欣やステープルドンを彷彿とさせる作風ではある)どの漫画もたいへん楽しく読んでい

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  • 第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作にして、刺さる人にはこれ以上なく深く刺さる物語──『ここはすべての夜明けまえ』 - 基本読書

    ここはすべての夜明けまえ 作者:間宮 改衣早川書房Amazonこの『ここはすべての夜明けまえ』は、第11回ハヤカワSFコンテストの特別賞を受賞したSF中篇(もしくは短めの長篇といえるかぐらい)だ。特別賞は長さが短めだったり一点突破の魅力があったりで受賞する作品が多いが(たとえば過去事例で代表的なのといえば草野原々の「最後にして最初のアイドル」など)、作も「刺さる人にはこれ以上なく深く刺さる」、2100年代を舞台にした、問題まみれの家族の物語だ。 とある理由からひらがなだらけの文章で物語が始まるので面らうのだが、設定開示の順番は心地よく、すぐに作中世界へと入り込んでいくことができる。単行になる前からゲラが配られたりSFマガジンに全文掲載されたりしていたのでエモいエモいと評判だけは聞いていたのだけど、実際に読んでみたらたしかにこれはエモーショナルな物語だ。しかし、ただ感動させよう、感動さ

    第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作にして、刺さる人にはこれ以上なく深く刺さる物語──『ここはすべての夜明けまえ』 - 基本読書
  • 今年(2023年)おもしろかった本を一気に紹介する。 - 基本読書

    今年おもしろかったを一気に紹介します。大きめの書店が次々閉店し、人手不足や配送の問題もあって出版的には厳しい時期が続くがおもしろいは依然として絶えない。あとゲームもいっぱいやったので、だけでなくゲームも合わせて振り返っていこう。いつもは長くても5000文字ぐらいだが、今回は試しに合計1万文字以上書いてみたので、よかったら目次から興味あるやつにとんで読んでみてください。 SFを紹介する キム・スタンリー・ロビンスン『未来省』 N・K・ジェミシン『輝石の空』 ローラン・ビネ『文明交錯』 シーラン・ジェイ・ジャオ『鋼鉄紅女』 ジョン・スコルジー『怪獣保護協会』 『宇宙の果ての屋』 ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』 酉島伝法『奏で手のヌフレツン』 川端裕人『ドードー鳥と孤独鳥』 斜線

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  • 「能動的に行動する能力」はいかにして生まれ、進化してきたのか──『行為主体性の進化:生物はいかに「意思」を獲得したのか』 - 基本読書

    行為主体性の進化:生物はいかに「意思」を獲得したのか 作者:マイケル・トマセロ白揚社Amazonこの『行為主体性の進化』は、認知科学が専門のマイケル・トマセロによる、「行為主体性」について書かれただ。霊長類や他の哺乳類はアリやハチといった昆虫と比べると「知的」であるようにみえる。しかしその知的さをどのようにはかるべきだろうか。もちろん、これについては行動の複雑さなど無数の尺度が考えられるだろうが、書ではその知的さの違いを「行動の制御」に見出していく一冊だ。 たとえば、アリやミツバチの行動は、それがどれほど複雑であっても個体がすべてをコントロールしているようにはみえない。彼らの行動を主に制御しているのは個体の判断ではなく生物学的機制(バイオロジー)である。一方の霊長類や他の哺乳類は、ある程度は自分のコントロールにおいて、情報に基づく決定を能動的に下しているようにみえる。これに関連して出て

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  • 竹書房文庫のSFで電子書籍セールが開催しているので、おすすめを紹介する - 基本読書

    竹書房文庫から刊行の《竜のグリオール》シリーズ全作刊行を記念して、竹書房文庫の中でもSFに絞った電子書籍セールが開催されているので(13日まで)、竹書房文庫の布教ついでに紹介しようかと。竹書房はSFのイメージは持たれていないかもしれないが、近年はSF好きの編集者ががんばったおかげで竹書房文庫からばんばんSFが(翻訳SFが多いが、日SFもある)出ていて、しかもどれもおもしろいAmazon.co.jp: 竹書房文庫 SF: Kindleストア 書評家や作家といった業界関係者による投票でランキングを決める年刊ムック「SFが読みたい!」でも竹書房文庫発の作品がいくつも名を連ねるなど、竹書房は今やSFを語る上では外せない出版社の一つになっている。特徴の一つと言えるのは竹書房文庫のSFのほとんどを坂野公一がデザインしており、作品によってはかなり攻めた文庫の装幀がみられること。鮮烈なイメージを残す

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  • 入り組んだイスラエルの歴史、その問題を、解きほぐすように解説していくノンフィクション──『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』 - 基本読書

    イスラエル 人類史上最もやっかいな問題 作者:ダニエル ソカッチNHK出版Amazon2023年の10月7日に勃発した、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃。件については今なお目まぐるしく状況が動いていて日々ニュースが絶えないが、その背景には複雑な歴史や思想があって素人が理解するのは容易ではない。Web記事なども多数読んだが、まとまった情報がほしい時はやはり書籍に限る。 いくつか読んだが、中でもイスラエルの民主主義を達成させるためのNGO、「新イスラエル基金」のCEOの著者ダニエル・ソカッチによる『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』は今年(2023年)の2月に刊行されたばかりのノンフィクションで、現在の事態をフラットに、かといって事実を列挙するだけではない形でイスラエルーパレスチナ間の問題を説明していて、特におすすめの一冊だったので紹介したい。 著者は書を、ある特定の

    入り組んだイスラエルの歴史、その問題を、解きほぐすように解説していくノンフィクション──『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』 - 基本読書