最後に、ホッブズの社会契約の第三と第四の問題点をまとめて考えてみよう。ホッブズの社会契約では、国家の創立が社会の外部の第三者との契約として想定されており、しかもこの契約は一度限りのものとし、撤回できない性格のものであるという問題があった。撤回した際には契約は白紙となり、すべての当事者が自然状態、すなわち戦争状態に戻ってしまう。 これにたいしてスピノザの社会契約は外的な第三者と締結されるのではなく、国民の代表とのあいだで締結された民主的な契約である。この契約のもとで国家の支配者となる者は、たんに支配する権力を共同体の他の人々から委託されただけであり、この委託という事実のために、支配において権力を行使する際に、大きな制約のもとに置かれている。 スピノザの統治者の二つの責務 国家の権力者は、二つの側面から、この国民の信託に応えなければならない。第一は、権力者はたんにホッブズの権力者のように、国家