ロシアの心理学者ルリアの研究室に、1920年中頃のある日、驚異的な記憶力を持った新聞記者シィーが訪ねてきました。彼は、編集長の勧めでルリアの研究室にやってきたのですが、彼自身は自分の超能力に気付いていませんでした。ルリアは当時まだ20代でしたが、シィーはまもなく30才になるところでした。ルリアは数の系列、語の系列などつぎつぎとテストしていきましたが、シィーは系列の数を増やしても何の困難もなく正確に憶えることができました。ルリアはその後30年に渡って、シィーの記憶力の異常発達、それが認識過程や人格形成にもたらした作用について、心理学の様々な手法を駆使して、観察・分析することになったのです。 シィーは、語や数の系列を見続けるか、あるいは、口述された語や数を視覚像に変換することで記憶していました。例えば、黒板にチョークで書かれた数表を記憶するとき、彼は、数表を注意深く見つめ、目を閉じ、再び目を開