君主制に未来はあるか? Paul M. Handley, The King Never Smiles (Yale University Press, 2006) (『一冊の本』2007 年 11 月号 pp.26-7) 山形浩生 要約: 一見、揺るぎない王制を敷いているかに見えるタイの王さまも、実はかなり波瀾万丈の生涯を送っており、もともと王位がめぐってくるはずがなかったのが各種の事故で現職に至る。兄の謎の死、各種クーデターによる失脚と復位の連続、権力の控えめな利用によるキャスティングボート保持戦略などが有効に機能してかれの現在の不動の地位がある。隣国カンボジアのシアヌークとは大違いだ。だがこれからは? 民主主義の世の中にあって、王さまや皇帝や天皇の位置づけはとてもむずかしく、その愛憎半ばするような人気の一端も、そのいかにもあいまいなポジショニングにもあるのだろう。なぜ王様は王様なの? な
ピケティ『21世紀の資本』 訳者解説 (v.1.1) 2015.1.23-2.1 山形浩生 hiyori13@alum.mit.edu この資料はクリエイティブコモンズ Attribution-ShareAlike 4.0 国際ライセンス下で公開されています. 今日の構成 • 1. 『21世紀の資本』とピケティのえらさ • 2. あらすじ: r > g から格差拡大へ • 3. 格差是正の処方箋は? • 4. ピケティ本の受容・誤解・批判 • 5. 日本への示唆とは? • 6. 落ち穂拾い 2 まずはじめに…… • ピケティの本と、ピケティの他の論文での記述と、 ピケティがインタビュー等での発言とは、分けて 考えよう! – 本がいちばんストイック。たぶん意図的に書いていな い話もかなりある。 – 前二つは、それなりにきちんと考えてまとめたものだ けど、インタビューは(特に日本のことなんかは
pg. 1 © 山形浩生 ピケティ『21 世紀の資本』FAQ (v.1.4) 2014 年 12 月 山形浩生 Disclaimer: ここに書かれたのは訳者の私見であり、ピケティの見解ではない。 Q1. この本での資本とは? → 資本、資産、財産、富はこの本ではすべて同じもの。扱っているのは、総資産から負 債を引いた、いわばエクイティ部分のこと。 (住宅は資産だが、ローンが残っていればその部分は差し引かれる) 人的資本は入っていない。 Q2. え、人的資本が入っていなくて大丈夫なんですか? 現代では人的資本の ほうが重要なのでは? → はい、そういう批判は出ている。物理的資本だけ見ても仕方ないんじゃないか、現代 産業の主流は人的資本だ、と。でも、それを計測するのはなかなかむずかしいので「人的 資本を入れたらこうなります」というしっかりした反論は出てきていない。 またピケティもそれを予測し
イスラム国躍進の構造と力 『公研』2014年10月号 「対話」 池内恵 VS 山形浩生 山形:イスラーム国の人たちの言動や行動を見ると、ずいぶんと前近代的で昔に戻ったかのような印象を受けます。その一方で彼らの意識には、中東の民主化への動きとも言える「アラブの春」が大きく関係しているのだと思います。池内さんは今回のイスラーム国の登場と「アラブの春」の関係をどのように捉えていらっしゃいますか。 池内:「アラブの春」が一回りしたことで中東地域に生まれた環境は、イスラーム国にとって非常に都合の良いものになりました。その環境と言うのは、中央政府の揺らぎ、弱体化であり周辺領域の統治の弛緩です。そこに、元来イスラーム国が依拠するイスラーム過激派の戦略論がぴたりと合わさった。9・11テロに対して、アメリカは大規模な対テロ戦争を展開し、イスラーム過激派は軍事的にも情報的にも経済的にも追い詰められました。それ
経済ジャーナリズム:2014 年への展望 2013.12 月 『ジャーナリズム』没原稿 山形浩生 1 経済ジャーナリズムといっても、幅は広い。そして世の中で経済ジャーナリズムだと思 われているものの大半について、日本はそんなに問題がある状態ではないだろう。もちろ ん仕事柄、比較の対象となっているメディアが発展途上国ばかりで、利権と党派まみれの 新聞だったり大本営発表だけのテレビだったりという偏りはあって、それと比べればネコ でも立派に見える。ついでに、ドコモが iPhone を扱うというネタが今年やっと実現するま でに、何回飛ばし記事を読まされたかを考えて見ると、日本もそんなに威張れるわけでは ない面もある。 しかしおそらく、事実を伝えるだけの報道は今後、重要性を失う。特にネットの進展で そうした部分は他の手段で伝達される比率が増える。そして、速報性についてネットの情 報流通と張り合おうと
クルーグマンのコラムがつきつける現代マスコミの問題など。 (『CUT』2003 年 10 月) 山形浩生 ここしばらく、世界最高の経済学者二人(そしておそらくは、最も口の悪い経済学者二人)、ジョセフ/スティグリッツとポール・クルーグマンが、相次いでアメリカの近年の政治経済政策についてきわめて批判的な本を出している。スティグリッツのほうはもうすぐに邦訳が出るらしい(この文をみなさんが目にする頃にはすでに出ているだろう)。だからスティグリッツはそれを待つことにして、今回はクルーグマンだけにしておこう。それに、クルーグマンのほうは、ちょっとおもしろい問題をはらんでいるのだし。 というわけで、クルーグマン『The Great Unraveling』だ。これはかれがニューヨーク・タイムズ紙に掲載しているコラムを中心にまとめた本なのだった。かれが2000年頃からNYTに連載を始めたときには、同紙はなに
(『クーリエジャポン』2008/12号 #51) 山形浩生 世間は未だ、金融危機のショックから立ち直るどころか、ショックそのものがまだ続いているような状態。これについては各種の議論がまだ山ほど続いていることだろう。ここでは例によって、少し目先の変わったものを紹介することにしよう。 ご存じの通り日本のマスコミは、セックスがらみの話だと極度の偽善ぶりを発揮する。政治家や企業トップの愛人だの買春経験だのを謹厳な顔で糾弾した週刊誌を一ページめくると、グラビアアイドル大股開き写真や「黒い報告書」や風俗おすすめ穴場探訪記事が劣情を誘っている。この一貫性のなさが日本のジャーナリズムに対する軽侮の念につながっていると思う。またそうでないメディアは、ひたすら臭いものに蓋でそもそもセックスの話題に触れることすら避けるか、教科書的なお題目を唱えるだけ。たぶん、以下のような記事が日本の一般メディアに出ることは、ま
ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』解説 Intro to Keynes General Theory (2006) Paul Krugman 山形浩生 訳 要約: 「一般理論」のすごさは、それが有効需要の問題をきちんとうちだして、セイの法則(供給は需要を作る)と古典金利理論を打倒したことだ。それは経済の見方を完全に変え、ケインズ批判者も含めていまや万人がケインズの枠組みで経済を考えている。今見ると冗長に思える部分も、ケインズが当時の古典経済学の常識を破壊した結果としてそう見えるだけだ。そして金融理論の過小評価というありがちな批判は、当時の(いまの日本と同じく)超低金利環境の反映であり、理論の中では重要性も指摘されている。真に画期的な名著。必読。 General Theory初版、1936 目次 はじめに ケインズのメッセージ ケインズはなぜ成功したか ケインズ氏と現
ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章について 山形浩生 草思社の倒産で一時はどうなるかと思った『銃、病原菌、鉄』邦訳だが、無事に復活して文庫にもなって、まずはめでたい。おもしろい本だし非常に含蓄があるので、これが入手困難になるのは大変痛かったもので。 しかし、アマゾンのレビューを見ていると、変な記述に出くわした。これだ: 翻訳されていない一節 (Tsiroeht Emag) 訳されなかった章がある? そんなバカな。草思社が(愚かにも)参考文献をカットしたのに怒ってみんなで訳したときに、原書はちゃんと見ているがそんな章はなかったぞ。(なお、草思社も知恵をつけて、その後参考文献をウェブで公開したうえ、文庫版にはちゃんと載せているのでご安心を。)それも日本人に関する章で人間宣言がどうしたこうした? そんな最近の話を扱っているわけもないと思って、コメントにもそう書いたんだが…… 調べて
福祉、家族、セックス。 ゲスタ・エスピン=アンデルセン『ポスト工業経済の社会的基礎』(桜井書店) ベイカー『セックス・イン・ザ・フューチャー』(紀伊国屋書店) 山形浩生 いまのアメリカ大統領戦でも大きな争点の一つだし、ある人はいまの日本の不況の本当の原因もそこにあるというのだけれど、いま世界の先進国は高齢化しつつあって、一方それに対する社会保障の破綻は目に見えてきている。年金や社会保障のもとの想定とはうらはらに、先進国の人口は減少トレンドに入ってきている。資産運用も、年率5%でまわせる安全な資産なんてない。 というわけで、どうしよう。さらにもう一つ。世の中年寄りは増えているけれど、それだけじゃない。年寄りだけを楽にしたら、ほかのところにしわ寄せがいくだけで、そんな状況は絶対に続かない。だから社会全体としてどうまわすのか、ということをきちんと考えないと話にならない。これは要するに、社会全体と
経済の仕組みをあらわすために、ホントに機械を作っちゃったのはアーヴィング・フィッシャーと、アルバン・フィリップスだ。 同じく機械が好きだったのは、もと論理学教授だったスタンリー・ジェヴォンス。かれは論理学をやっていた頃に、いまのコンピュータの原型ともいうべき「論理ピアノ」を実際に作っている。 アーヴィング・フィッシャーは、ロロデックス(あのアメリカ人の机によくある、ぐるぐるまわすみたいなカード式住所録システム)を発明して大もうけした。(その後、ブラックマンデー直前に「アメリカの株式市場はだーいじょうぶ、とお墨付きを出して、一気に評判と財産を失う) 貨幣数量説を初めて唱えたのは、コペルニクスだったらしい……が、時期だけで言うと、管子にも貨幣数量説に近い議論は出てくるのだった。 ニュートンは、経済学方面ではあまりできがよくなかった。かれのせいで金本位制が導入され、そして造幣局長になったかれは、
『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 64 回 フォロワー数で変わるツイッターのメディア性 月刊『アルコムワールド』 2011/07号 要約:ツイッターの持つメディアの特性は、フォロワー数によってだんだん変わる。それに自覚的でない人の多くは、自分のおかれた環境にまったく鈍感なために愚かしい醜態をさらすことが多い。が、求める水準のメディアにとどめるための作業もむずかしい。 ある人の書くものでも、あるいはツイッターのツイートでもいいけれど、長いこと見ていると、ときどきその人がだんだん——または突然——おかしくなって、ぎょっとすることがある。今回の震災と原発事故では特に、ツイッターでそんな光景が見られた。それまで普通あるいは高めの見識を持つと思っていた人が、いきなりわけのわからないことを言い、デマに踊らされ、それをたしなめられると逆ギレして相手を罵り、過去の発言との矛盾を指摘されると変な言い
THE WORLD'S SMALLEST MACROECONOMIC MODEL (1998) ポール・クルーグマン 山形浩生訳 要約:世界最小の経済学モデル紹介。財とお金しか出てこないし、期待も何もない。でも、人々が持ちたいお金の量が実際のお金の量を上回ると失業が発生することがわかるし、乗数効果も出てくる。ラフなモデルだけれど、マクロ経済学(つまりケインズの主張)の本質はあらわしているんだよ。 このモデルは一九七五年にロバート・ホールから教わった。ばかげてつまらないものに見えるかもしれない。でも当時のぼくには、それがマクロ経済の「需要サイド」で起こっていることの本質を捕らえ、世間一般と、言いたくはないがかなりの博士号を持つ経済学者たちの両方が混乱しがちな点をはっきりさせるのに役立つと思った。いまのぼくもそう思う。これはまた、ぼくが大好きで何度も活用してきた経済たとえ話、赤ん坊子守協同
THERE'S SOMETHING ABOUT MACRO (1998) ポール・クルーグマン 山形浩生訳 要約: MIT には古くさい IS-LM を教えられるマクロ経済学者がいなくなってしまった。学者たちがそういうモデルをバカにして無視してきたからだ。でも現場では IS-LM がばりばり使われている。それは IS-LM みたいなモデルが、いろいろ批判はあるにしても、具体的な問題を考えるための実に簡潔で有用なツールを提供してくれるからだ。 年の瀬を迎えてぼくの頭をよぎるのは……講義の下準備だ。講義開始は二月だけれど、でも教科書も注文しなきゃだし、教材の版権をクリアしてコピーセンターに送らなきゃだし、講義のアンチョコも用意しないと。 この春学期、ぼくは新しい仕事をもらった。大学院生に、マクロ経済学初級を教えるのだ。通常、この講義はマクロ経済学を専門とする人物が教える。そして一般向けのぼ
アイザック・ニュートン 卿情報ページ 左はご尊顔いくつか このサイトは、インターネット上のアイザック・ニュートン情報ページナンバーワンです! * アイザック・ニュートン卿に関する事実でぼくが見逃したものがあれば、delazach@hotmail.com までメー ルよろしく。またこのページの情報を使って学校のレポートを書いた人は、成績を教えてほしい。他の人 のためにページ改善に役立てるので。このページは、現代最高の数学者アイザック・ニュートン卿につい てレポートを書いたりもっといろいろ知りたかったりする人向けの情報提供ページだ。このページに書い てあることの多くは、教科書では平然と否定されていたりする。でもニュートン卿を深く研究してきたぼ くは、これまで知られていないいろんなことをつきとめた。まあとにかく、本書の情報をどれでも論文や 卒論、会話なんかに使ってほしい。歴代最高の数学者について
原ページ (2001-2007頃) ご尊顔いくつか アイザック・ニュートン卿情報ページ このサイトは、インターネット上のアイザック・ニュートン情報ページナンバーワンです! * アイザック・ニュートン卿に関する事実でぼくが見逃したものがあれば、delazach@hotmail.com までメールよろしく。またこのページの情報を使って学校のレポートを書いた人は、成績を教えてほしい。他の人のためにページ改善に役立てるので。 はじめに このページは、現代最高の数学者アイザック・ニュートン卿についてレポートを書いたりもっといろいろ知りたかったりする人向けの情報提供ページだ。このページに書いてあることの多くは、教科書では平然と否定されていたりする。でもニュートン卿を深く研究してきたぼくは、これまで知られていないいろんなことをつきとめた。まあとにかく、本書の情報をどれでも論文や卒論、会話なんかに使ってほ
最近の噂 風の噂ではございますが…… なお、リンクする場合には各コメントの日付のあとにある「id」をクリックすると、そのコメントのユニーク id が url 欄に表示されるぞ。 2011/10 ラオスにきたら、いつも使っている携帯電話がつながったりつながらなかったり。SMSも送れなかったりする。するとカウンターパートから連絡がきて、今使っている携帯電話(TIGO 改め Beeline) を換えろという。TIGO から他のキャリアの電話につながらなくなっているから、といって。なんじゃそりゃ。 TIGO の機械の故障らしい、と言われたんだが、調べてみたら、なんと TIGO が(おそらく Beeline に買収/改名する過程で)協定破りのプロモーションをやって、それに対して他の携帯会社が制裁措置として、TIGO/Beeline への回線接続を切ったんだって。ひでえ。協定破りって、少しお得なプラン
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