本記事は、20世紀イギリスの作家ヴァージニア・ウルフによるエッセイ「病気になるということ(原題:On Being Ill)」の新訳の2記事目です。1記事目のリンクはこちらです。 「病気になるということ」 セクション2 ともあれ病人に話を戻そう。「インフルエンザになって寝ているんです」というとき、その言葉はどんな大きな体験を伝えているのだろうか。世界は姿を変えてしまった。仕事で使う道具は遠のいてしまった。お祭り騒ぎも、遠くの野から響いてくるメリーゴーランドの音みたいにロマンティックに聞こえる。友人たちも姿を変え、妙(たえ)なる美を纏(まと)う友人もいれば、ヒキガエルくらいにひしゃげる友人もいる。人生の全風景は彼方で美しく、まるで沖合に乗り出した船から眺める岸辺のよう。そして我が身はと言えば、あるときは高みで有頂天、人からも神からも助けは借りないといった風情(ふぜい)で、あるときは床にひっくり