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短篇集の検索結果1 - 40 件 / 133件

  • SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集──『なめらかな世界と、その敵』 - 基本読書

    なめらかな世界と、その敵 作者: 伴名練,赤坂アカ出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/08/20メディア: 単行本この商品を含むブログを見るこの『なめらかな世界と、その敵』を端的に紹介すれば、SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集である。とはいえ著者伴名練の名は、SFファン以外は聞いたことはないだろう。既刊行作は『少女禁区』という約10年前に刊行された中短篇集一冊のみで、その後も企画物のアンソロジーに散発的に短篇を発表しるのみだったから、普通は知る機会は多くはない。 だが、SFファンの間では、本書の刊行前から伴名練の名は異常なほどの熱気でもって知られていた。というのも、商業発表作こそ少ないものの、同人誌に毎年のように新作短篇を発表しており、その作品の出来がまた凄まじかったからだ。それまでのSFの先行作を緻密かつ複雑に折り込み、舞

      SFマニアからビギナーまであらゆる層を満足させる、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集──『なめらかな世界と、その敵』 - 基本読書
    • 今まで意識したこともなかった領域に言葉で触れる方法を教えてくれる、期待の新進アメリカ作家のSF短篇集──『アメリカへようこそ』 - 基本読書

      アメリカへようこそ (角川書店単行本) 作者:マシュー・ベイカー,田内 志文KADOKAWAAmazonこの『アメリカへようこそ』はアメリカの新進作家マシュー・ベイカーの初の短篇集の邦訳である。どうやらアメリカでは「注目すべきストーリーテラー10人」に選ばれるなど注目の作家のようだが僕は聞いたことがなく、SFの短篇集らしいという前情報だけで読み始めたのだけど、これが読んだらたまげてしまった。 扱っている題材はマインドアップロードから犯罪をおかすと記憶を消される世界の男の話まで奇想系まで様々なのだが、とにかくその筆致、語りは誰かに似ているようで似ていない、オリジナルなもので、他で体験できない心地よさが残る。「これまで意識したこともなかった領域に言葉で触れた」とでもいうような短篇群で、その良さがうまく表現できないのだが、だからこそたまげたのだ。単純明快でわかりやすい作品ではないが、その分、文の

        今まで意識したこともなかった領域に言葉で触れる方法を教えてくれる、期待の新進アメリカ作家のSF短篇集──『アメリカへようこそ』 - 基本読書
      • ケン・リュウによる、中国、日本、米国の歴史と文化を横断的に取り込んだ珠玉のSF短篇集──『宇宙の春』 - 基本読書

        宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:ケン リュウ発売日: 2021/03/17メディア: Kindle版本作『宇宙の春』は、中国と米国、作家と翻訳家を股にかけて活躍する作家ケン・リュウの日本オリジナル短篇集第四弾である。独立した話の短篇集なので、もちろん本書から読んでも問題ない。第二弾、第三弾の短篇集が分厚かったことの反動か、今回は300p全10編とコンパクトになったが、その分シンプルに質の高い作品が揃っている。第一〜から第四冊までを並べた時に、第一と並ぶぐらい好きな巻となった。 作品の発表年としては2011〜20年のものが揃っている。全体をざっくり紹介しておくと、詩的に宇宙の壮大なスケールを歌い上げるような作品もあれば(「宇宙の春」)、未来のシミュレーションを行うSFプロトタイピング的な作品あり(「充実した時間」)、731部隊を「過去に起こったことを一度だけ実体験できる」特

          ケン・リュウによる、中国、日本、米国の歴史と文化を横断的に取り込んだ珠玉のSF短篇集──『宇宙の春』 - 基本読書
        • SFの醍醐味がつまったSFコミック短篇集──『無限大の日々』 - 基本読書

          無限大の日々 作者: 八木ナガハル出版社/メーカー: 駒草出版発売日: 2018/02/28メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る著者八木ナガハルがコミケやコミティアで発表したオリジナルSF漫画を集めたこの一冊。SF物で一巻完結という時点で珍しいが、その中身は漫画という表現形式ならではの壮大なSFアイディア/光景をみせてくれる、SFとしての醍醐味がたんまり詰まった短編集だ。軌道衛星、何種類もの軌道エレベータ、昆虫型の異生物、機械知性に自由意志問題──といったいくつものネタを、守備範囲が海外SF小説メインのハードSF者と自己紹介する著者が調理していくので、それはまあおもしろいわな。 各作品をざっと紹介する 本当は絵、ヴィジョン、見せ方をそのまま貼っつけてお見せしたいところだがそれは無理なので全八篇の収録作を順番に紹介していこう。まず最初に収録されているのは、別々の惑星で同じ

            SFの醍醐味がつまったSFコミック短篇集──『無限大の日々』 - 基本読書
          • 韓国SFに多大な影響を与え、現代韓国で「最もSFらしいSFを書く」といわれる作家のSF短篇集──『どれほど似ているか』 - 基本読書

            どれほど似ているか 作者:キム・ボヨン河出書房新社Amazonこの『どれほど似ているか』は韓国の作家キム・ボヨンのSF短篇集である。「文藝」に掲載されたされた「赤ずきんのお嬢さん」や「SFマガジン」に掲載された「0と1の間」など断片的に作品が紹介されてきたが、一冊丸々の翻訳はおそらくこれが初。 ペ・ミョンフンの『タワー』、チャン・ガンミョンの『極めて私的な超能力』など近年翻訳される韓国SF短篇集の質は非常に高く、本作にもかなり期待をしながら読み始めたが、これが既訳の韓国SF作品群に負けず劣らずおもしろい! (翻訳されてくる)韓国SFの特徴の一つは韓国社会の苦境や実際の事件などが作品に反映されていることが多い点にあり、本作でもそうした面は多々あるのだが、超能力/能力バトルものからAIを扱ったミステリといった多彩な題材がそうした社会問題的なテーマと鮮やかに結びついている。池澤春菜さんの解説で、

              韓国SFに多大な影響を与え、現代韓国で「最もSFらしいSFを書く」といわれる作家のSF短篇集──『どれほど似ているか』 - 基本読書
            • 多彩で多才な中国作家によるSF短篇集──『郝景芳短篇集』 - 基本読書

              郝景芳短篇集 (エクス・リブリス) 作者: 郝景芳,及川茜出版社/メーカー: 白水社発売日: 2019/03/21メディア: 単行本この商品を含むブログを見る中国の作家郝景芳(ハオ・ジンファン)初の邦訳短篇集である。日本では作家ケン・リュウによって編訳された中国SFアンソロジー『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』の、そのまま邦題に入っている「折りたたみ北京」の著者といったら(SFファンには)伝わるか。この作品はヒューゴー賞の中篇小説部門も受賞しているし、『現代中国SFアンソロジー』で他に訳されていた作品も非常に質の高いものだったので期待していたのだけれども、これがおもしろい、というか技が広い。 収録作は全七篇で、その中には「北京 折りたたみの都市」のように中国の社会階層を圧倒的な情景で紡ぎあげてみせる作品もあれば、お前は中国のバリントン・J・ベイリーかよと言いたくなるような大スケー

                多彩で多才な中国作家によるSF短篇集──『郝景芳短篇集』 - 基本読書
              • 『三体』の劉慈欣を代表するような作品が集められた、同時刊行の短篇集2冊──『流浪地球』『老神介護』 - 基本読書

                流浪地球 (角川書店単行本) 作者:劉 慈欣,大森 望,古市 雅子KADOKAWAAmazonこの『流浪地球』と『老神介護』は、『三体』で知られる中国を代表する作家劉慈欣の短篇集である。なぜ同時に二冊出てるんだ、と思うかもしれないが、KADOKAWAが翻訳権を得た劉慈欣の短篇11篇(原著者側のセレクトによるもので、最初の英訳版短篇集とほぼ同じ)が、分量的に1冊で収まりきらなかったので分冊したようだ。 よって、分冊というか、上下巻みたいなものなので今回は同時に紹介しよう。いちおう作品傾向ごとに分けられていて、『流浪地球』(6篇収録)は全宇宙規模の物語が中心で、『老神介護』(5篇収録)は、地球を舞台にした作品が多い。繋がりのある短篇は一冊でまとまっているので、どちらを読むか、どちらから読むかは完全に自由だ。 すでに劉慈欣の短篇集としては早川書房から刊行の『円 劉慈欣短篇集』があるが、そのすべて

                  『三体』の劉慈欣を代表するような作品が集められた、同時刊行の短篇集2冊──『流浪地球』『老神介護』 - 基本読書
                • 魔術的闘争と共にアメリカの黒人差別の歴史を描き出す、ドラマ原作にもなったホラー連作短篇集──『ラヴクラフト・カントリー』 - 基本読書

                  ラヴクラフト・カントリー (創元推理文庫) 作者:マット・ラフ東京創元社Amazonこの『ラヴクラフト・カントリー』はファンタジーや幻想系の作品で知られるマット・ラフによるホラー・幻想の連作短篇集となる。まだ黒人差別が色濃く残る1950年代を舞台に、黒人中心の登場人物らが次々と差別と魔術的騒動に直面する様を、連作短篇形式の長篇で、時に情緒的に、時にコミカルに描き出していく。 本作は書名にも「ラヴクラフト」と入っているように、明確にクトゥルー神話の産みの親、H・P・ラヴクラフトとその著作が関係してくるが、それは(文庫解説にもあるように)シンプルにリスペクトだけがこめられているわけではない。ラヴクラフトには人種差別的な傾向が存在することが指摘されており、そうである以上本作(『ラヴクラフト・カントリー』)でも無批判に取り上げられていくわけではないのだ。 「黒人差別の歴史を描き出している〜」などと

                    魔術的闘争と共にアメリカの黒人差別の歴史を描き出す、ドラマ原作にもなったホラー連作短篇集──『ラヴクラフト・カントリー』 - 基本読書
                  • 今世紀最高のSF短篇集といっても過言ではない、テッド・チャン最新作──『息吹』 - 基本読書

                    息吹 作者:テッド・チャン出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/12/04メディア: 単行本ついにテッド・チャン最新短篇集『息吹』が刊行された! テッド・チャンは映画『メッセージ』の原作が含まれているSF短篇集『あなたの人生の物語』の著者として知られるが、その圧倒的な質の高さと反比例するかのように寡作で、これが17年ぶりの作品*1である。だが、それだけ待っただけのことはある圧巻の作品集だ。 現在までの29年のキャリアの中で出したのは短篇集二作のみなのだから、まさに寡作の王といってもいい貫禄ではあるが、(それだけの時間をかけたから、といっていいのかどうかはともかく)テッド・チャンが描き出す世界はとてつもなく緻密で、ありえないほど美しい。この短篇集も、SFを読む喜びに満ちていて、このような作品に出会うために小説を読んでいるのだ、と改めて実感させてくれる傑作揃いである。 テッド・チャン

                      今世紀最高のSF短篇集といっても過言ではない、テッド・チャン最新作──『息吹』 - 基本読書
                    • 『元年春之祭』の陸秋槎による、今年ベスト級のSF短篇集──『ガーンズバック変換』 - 基本読書

                      ガーンズバック変換 作者:陸 秋槎早川書房Amazon『ガーンズバック変換』は『元年春之祭』や『雪が白いとき、かつそのときに限り』、『文学少女対数学少女』といった、ミステリ系の著作で知られる陸秋槎による初のSF短篇集である。陸秋槎は北京出身だが、その後日本の石川県在住となった作家。日本文化への造形が深く、それは本作収録の短篇を読めばすぐにわかる。 というか、短篇だけ読ませたら日本の作家としか思えないだろう。香川県を舞台にした表題作「ガーンズバック変換」からして、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」に着想元がある作品なのだから。陸秋槎のSF短篇は『異常論文』アンソロジーや『アステリズムに花束を』に掲載されていたから、すでに抜群におもしろいことはわかっていた。だが、今回本邦初訳の二作と書き下ろし二作も含めて全体を読み直してみたら、期待をはるかに超えておもしろい! まだ2023年もはじまった

                        『元年春之祭』の陸秋槎による、今年ベスト級のSF短篇集──『ガーンズバック変換』 - 基本読書
                      • 『闇の左手』などが連なる《ハイニッシュ・ユニバース》物にして、奴隷制度・ジェンダーを真正面から扱ったル・グインのSF短篇集──『赦しへの四つの道』 - 基本読書

                        赦しへの四つの道 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:アーシュラ K ル グィン早川書房Amazonこの『赦しへの四つの道』は、の『闇の左手』などの傑作群が連なる《ハイニッシュ・ユニバース》と呼ばれる世界を舞台にした、ル・グィンによる連作短篇集だ。 原書は1995年の刊行なので待望の邦訳となる。ル・グインの新しい作品を久しぶりに読んだが、政治・宗教・社会と「異星の文化を立体的に立ち上げていく」マクロ的な手腕と、ほんのわずかな動作から人間の差別感情を浮かび上がらせるミクロ的な演出が、やはり異次元レベルにうまい。今回はテーマが奴隷制や女性の権利獲得の物語ということで展開や文体は重苦しいが、SF☓奴隷制テーマではトップクラスのおもしろさを誇るオクテイヴィア・E・バトラーの『キンドレッド』に比肩しうる作品である。 キンドレッド (河出文庫) 作者:オクテイヴィア・E・バトラー河出書房新社Ama

                          『闇の左手』などが連なる《ハイニッシュ・ユニバース》物にして、奴隷制度・ジェンダーを真正面から扱ったル・グインのSF短篇集──『赦しへの四つの道』 - 基本読書
                        • 『横浜駅SF』の柞刈湯葉による初のSF短篇集──『人間たちの話』 - 基本読書

                          人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA) 作者:柞刈 湯葉発売日: 2020/03/18メディア: 文庫『横浜駅SF』の柞刈湯葉による初のSF短篇集がこの『人間たちの話』である。小説はだいたい人間の話をするものだから「人間たちの話」と題がついている──わけではなく、本書の中で唯一描き下ろしされている短篇が表題作となっているのだ。で、この表題作は当然今回始めて読んだんだけどこれがまたすごくて──と、詳細はのちに譲るが、柞刈湯葉という作家の無数の側面を堪能できる短篇集が揃っている。 横浜駅が改築を繰り返していって次第に自己増殖し日本中を覆い尽くすまでになったら──を椎名誠✕BLAME!的に描き出した『横浜駅SF』。地球が膨張して東京↔大阪間が5000kmもある特殊な日本でのぐだぐだな大学生活を描いた『重力アルケミック』。ほとんどの人間はもはや働く必要がなくなった未来でほとんど趣味として職安をやってい

                            『横浜駅SF』の柞刈湯葉による初のSF短篇集──『人間たちの話』 - 基本読書
                          • 『新しい時代への歌』のサラ・ピンスカーによる、今年ベスト級のSF短篇集──『いずれすべては海の中に』 - 基本読書

                            いずれすべては海の中に (竹書房文庫) 作者:サラ・ピンスカー竹書房Amazonこの『いずれすべては海の中に』は、(新型コロナウイルスをめぐる状況の)予言的な作品として話題になった『新しい時代への歌』のサラ・ピンスカーによるSF中心の短篇集である。2013年から2017年にかけて様々な媒体に書いた短篇を集めたもので、邦訳では『新しい時代への歌』が先行したが、これが著者の初単行本となる。 長篇しか読んだことがなかったので、短篇にはそこまで期待せずに読み始めたのだけどこれが大ヒット。文章はまるでひとつの曲のように詩的で、思いがけない発想、表現がどの短篇にも盛り込まれ、独自の世界観にたっぷりと浸らせてくれる。僕の大好きな要素が詰まった短篇集で、特に中篇の「風はさまよう」は読んでいて思わず身を乗り出すようなおもしろさがあった。今年もさまざまな短篇集・アンソロジーが出ているが、今のところはこれが個人

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                            • 『三体』の劉慈欣による本邦初の短篇集、劉慈欣は長篇だけでなく短篇もおもしろい!──『円』 - 基本読書

                              円 劉慈欣短篇集 作者:劉 慈欣早川書房Amazonこの『円 劉慈欣短篇集』は、『三体』の著者劉慈欣による本邦初の短篇集である。中国での短篇集の翻訳かと思ったら、作品選択は原著者側によるもので、どのような意図があるのか訳者にもわかっていないらしい。ただそれで謎のセレクションになっているかといえばそうでもなく、1999年のデビュー作から2014年の作まで、キャリアを概観できるような作品集(13篇)になっている。これがまたおもしろいんだ。 劉慈欣の短篇が素晴らしいのは映画『流転の地球』の原作にもなった「さまよえる地球」をはじめとした邦訳作の数々からとっくに知っていたつもりだったが、通して読んでみるとそれでもまだナメていたなと実感させられた。科学と芸術の意味を高らかに謳い上げ、人類の歴史やその本質に接続してみせる、そんな『三体』の要素を凝縮したような高密度の短篇ばかりで、読み終えた時の満足感はと

                                『三体』の劉慈欣による本邦初の短篇集、劉慈欣は長篇だけでなく短篇もおもしろい!──『円』 - 基本読書
                              • 上質なボーナストラック「殊能将之 未発表短篇集」 - あざなえるなわのごとし

                                デビュー後、編集部の要請で送られていた習作短篇3篇とデビュー当時の様子を友人に書き送った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。独特の笑いとセンス、ペーソスを湛えた殊能将之初期作品集。 【スポンサーリンク】 未発表短編 2013年に亡くなった殊能将之氏の未発表短編などが納められた短編集。 短編は三つ。 犬ぎらいの半崎の隣家に引っ越してきた光島家。 光島家の前には放し飼いにされた巨大な白い犬が道路に寝そべっていて、半崎は犬を避け遠回りして帰るしかない。 半崎は、犬に紐をつけろと言うため光島家を訪れるが……(犬ぎらい) 土木作業員の北沢、ヤクザの黒川、サラリーマンの安原。 三人は銃や刀を準備し、高木が隠れるアパートを襲う(鬼ごっこ) 妻がなくなり失意にある親友の広永の家に招かれた宮崎。 広永は怪しげな魔法書を持ち出し「妻を生き返らせる術を手伝って欲しい」と言うのだった(精霊もどし) ハサミ男 (講談社

                                  上質なボーナストラック「殊能将之 未発表短篇集」 - あざなえるなわのごとし
                                • ドラゴンカーセックス奇譚から人が死んだら電柱になる世界の話まで揃った奇想短篇集──『流れよわが涙、と孔明は言った』 - 基本読書

                                  流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA) 作者: 三方行成出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/04/18メディア: 文庫この商品を含むブログを見るシンデレラや竹取物語といった童話が、もし人間が科学技術によってその姿を変質させたトランスヒューマン時代という設定で語り直されたら──さらには、その話の最後に、”ガンマ線バースト”が世界に降り注いで無茶苦茶になったら──、というぱっと見完全に意味不明な状況を描きあげていく奇作『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』の著者である三方行成の最新作、『流れよわが涙、と孔明は言った』はそれに負けず劣らず無茶苦茶な状況が連続する奇想5篇の短篇集である。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp SFコンテストの優秀賞を受賞したトランス〜が刊行されたのが2018年11月のことだから、それから僅か半年ばかりの間で次作が出

                                    ドラゴンカーセックス奇譚から人が死んだら電柱になる世界の話まで揃った奇想短篇集──『流れよわが涙、と孔明は言った』 - 基本読書
                                  • 『三体』の二次創作小説でデビューした宝樹による、時間SF短篇集──『時間の王』 - 基本読書

                                    時間の王 作者:宝樹早川書房Amazon次々と表現規制が行われており、今後中国の小説や漫画やゲームはいったいどうなってしまうのだろうかと戦々恐々と見守っている昨今だが、そんな最中でも中国SFは本邦で多数邦訳・刊行されている。劉慈欣の『三体』の二次創作小説をネットにアップしそれが大きく話題となって、そのまま劉慈欣公認で出版社から刊行されたことでデビューした宝樹による、時間SF短篇を集めた『時間の王』もそんな中の一冊である。 宝樹の短篇は、ケン・リュウによって編集された現代中国SFアンソロジー『月の光』や、中国史をテーマにしたSFを集めた日本オリジナルのアンソロジー『移動迷宮』などにすでに収録されていて、作家としての力量と作品のおもしろさは充分にわかっていたから本作にも期待していたのだけれど、予想にたがわずおもしろかった。 時間SFテーマなのでメインのギミックはタイムトラベルになるが、歴史テー

                                      『三体』の二次創作小説でデビューした宝樹による、時間SF短篇集──『時間の王』 - 基本読書
                                    • イーガンの最良の部分が詰まった傑作SF短篇集──『ビット・プレイヤー』 - 基本読書

                                      ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF) 作者: グレッグイーガン,山岸真,Rey.Hori出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/03/20メディア: 文庫この商品を含むブログを見るイーガンの最新邦訳短篇集である! イーガンは最近は『シルトの梯子』やら〈直交〉三部作やら、長篇の刊行が続いていたので、短篇集の刊行としては複数出版社のものをあわせて六冊目、前短篇集の『プランク・ダイヴ』から数えると、八年ぶりだ。そんだけ期間が空くと、たまにSFマガジンに訳出されたものを読んでいたとはいえ、イーガンの短篇ってどんな感じだったかなあと忘れている面もあったが、いやーあらためてこうして通しで読んでみると、やっぱりめちゃくちゃおもしろいな! 収録作をざっと見渡してみると、『白熱光』ラインの本格宇宙SFである「鰐乗り」「孤児惑星」、イーガンの現実に対する政治的な危機感がよく現れている「失われた大陸

                                        イーガンの最良の部分が詰まった傑作SF短篇集──『ビット・プレイヤー』 - 基本読書
                                      • 〈ゲーム・オブ・スローンズ〉原作者のSF短篇集──『ナイトフライヤー』 - 基本読書

                                        ナイトフライヤー (ハヤカワ文庫SF) 作者: ジョージ・R・R・マーティン,鈴木康士,酒井昭伸出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/05/02メディア: 文庫この商品を含むブログを見るゲーム・オブ・スローンズの最終章の終幕が間近に迫るさなか、その原作者ジョージ・R・R・マーティンの中短篇集が刊行。ゲースロ視聴者であっても原作の〈氷と炎の歌〉シリーズはその凄まじい分厚さもあって読んでいない人が多いだろうが、実は(もなにもないが)ジョージ・R・R・マーティンは小説も超おもしろいのだ! この中短篇集も文庫で570ページ超え(第五短篇集の全訳。初刊行は1985年だが、昨年改題のうえ再刊されている。)と、短篇集のわりに非常に重たいのだが、ゾンビあり、超能力者あり、なんだかよくわからない色んな生物や異星人あり、様々な神話や宗教が出てきて──と、ゲースロのあの異種格闘技戦じみたジャンル混交っ

                                          〈ゲーム・オブ・スローンズ〉原作者のSF短篇集──『ナイトフライヤー』 - 基本読書
                                        • 『紙の動物園』ケン・リュウによる邦訳最新短篇集──『生まれ変わり』 - 基本読書

                                          生まれ変わり (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者: ケンリュウ,牧野千穂,古沢嘉通,幹遙子,大谷真弓出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/02/20メディア: 新書この商品を含むブログを見る『紙の動物園』ケン・リュウによる日本オリジナル編集の短篇集第三弾がこの『生まれ変わり』である。『紙の動物園』に続く『母の記憶に』も抜群に良質の短篇集だったので今回については何にも心配していなかったが、やはり今回もアイディア良し、身近な家族や歴史の話から、億年スケールの宇宙の話まで幅広く、語りも絵文字を駆使したものやら独自人称やらでバリエーション、技工を凝らしたものになっており、読み進めるたびにケン・リュウの新たな側面を発見するような短編揃いであった。 とにもかくにも、いま日本の作家も含めて良質な短篇を読みたいのであればこの本(とケン・リュウの他短篇集)を読まない手はない。「まだケン・リュウ

                                            『紙の動物園』ケン・リュウによる邦訳最新短篇集──『生まれ変わり』 - 基本読書
                                          • 宇宙ものから超能力もの、ポリティカルな作品まで幅広い作品が堪能できる、韓国の人気作家による極上のSF短篇集──『極めて私的な超能力』 - 基本読書

                                            極めて私的な超能力 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者:チャン ガンミョン早川書房Amazonこの『極めて私的な超能力』はSFだけでなくノンフィクションや労働小説など幅広いジャンルの作品を手掛ける韓国の人気作家チャン・ガンミョンによるSF短篇集だ。この数年、『三体』をはじめとして中国SFが盛り上がっているが、韓国SFも忘れちゃいけない。実際、早川書房以外も含めていま翻訳が多数進行しているのだ。その中でも本作は、これまでの韓国SFの中でもトップレベルに僕の好みに合った一冊だ。 収録作は全10篇で、10ページに満たない作品も多いが、その発想や描写、演出の仕方はどれも独特でひねりがきいている。SFでは使い古されたアイデア(たとえば自分の最高のパートナーが統計・データ分析によって決定され、会ったこともない相手との相性が判別されるなど)もチャン・ガンミョンの手にかかれば新鮮な読み心地の作品へ様変

                                              宇宙ものから超能力もの、ポリティカルな作品まで幅広い作品が堪能できる、韓国の人気作家による極上のSF短篇集──『極めて私的な超能力』 - 基本読書
                                            • 意識と知性を問い続ける、ピーター・ワッツ入門に最適な短篇集──『巨星』 - 基本読書

                                              巨星 ピーター・ワッツ傑作選 (創元SF文庫) 作者: ピーター・ワッツ,緒賀岳志,高島雄哉,嶋田洋一出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/03/20メディア: 文庫この商品を含むブログを見るピーター・ワッツは『ブラインドサイト』や『エコープラクシア』といった長篇で、異種知性との遭遇、人類以外と人類の「知性」や「意識」とは何なのかを縦横無尽に語り尽くし、そのうえ吸血鬼やゾンビ、機械知性やらなんやらを理詰めで創造し物語の中にぶちまけた。二作品とも、大変におもしろい作品なんだけれども、第一の欠点としてややこしすぎ・説明が面倒臭すぎて読むのが大変だという問題があった。 なので、勧めてみても、「いやー、意味不明で読むのやめたわ」みたいなことが割合頻発していたのだけれども──そこにくるとこの『巨星』は凄い! 1篇20〜30ページぐらいの短篇集だから、サクッと読める上にピーター・ワッツの相

                                                意識と知性を問い続ける、ピーター・ワッツ入門に最適な短篇集──『巨星』 - 基本読書
                                              • SFとして、小説としても圧巻の短篇集──『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』 - 基本読書

                                                アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA) 出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/06/20メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る勇敢にも「世界初」と銘うたれている百合SFアンソロジーである。女性同士の広い関係性を扱う百合と、サイエンスなフィクションであるSFという、重ならないわけではないが別々のジャンルが、なぜアンソロジー(色んな人が作品を寄稿してまとまったもの)になっているのか? と疑問に思う人もいるかもしれないが、いくつか大きくバズった事件があり、「百合SFイケるのでは!?」という雰囲気がじょじょに醸成され、その流れの最先端のひとつがこの『アステリズムに花束を』なのである。 百合SFアンソロジーが出るまでの流れを説明する。 全体雑感 ざっと紹介する。SFマガジンにのったやつ ざっと紹介する。書き下ろし篇 おわりに 百合SFアンソロジーが出

                                                  SFとして、小説としても圧巻の短篇集──『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』 - 基本読書
                                                • おすすめの小説短篇集を紹介する - しっきーのブログ

                                                  2015-04-21 おすすめの小説短篇集を紹介する 小説 おすすめ 短篇集はいいですよ。普段はなかなか忙しくて小説を読む機会を作れないけど、短篇集なら一日に一話くらいは無理なく読めます。文章の修行、勉強にもなるし、短いけど心に残る作品もあって幸せになれますよ。みなさんも一日一作品、小説を読む生活をしてみては如何でしょうか。個人的におすすめの短篇集を紹介していきます。 日本近代短編小説選 日本近代短篇小説選 昭和篇1 (岩波文庫)作者: 紅野敏郎,紅野謙介,千葉俊二,宗像和重,山田俊治出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2012/08/18メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (5件) を見る 安定の岩波文庫。少々値が張るがハズレがない。というか、どれも教養として読んでおきたい名作ばかり。明治篇、大正編、昭和編があり、岩波らしくかなり教養的なチョイスで、例えば明治篇なん

                                                    おすすめの小説短篇集を紹介する - しっきーのブログ
                                                  • ド傑作揃いのSF漫画短篇集──『有害無罪玩具』 - 基本読書

                                                    有害無罪玩具 (ビームコミックス) 作者: 詩野うら出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2019/02/12メディア: コミックこの商品を含むブログを見る先日のSFファン交流会(海外SF、メディア(漫画、映画)2018年振り返り回)で、昨年のおすすめに加えて今年出た漫画のおすすめもされていただけど、その中でプッシュされていたのがこの『有害無罪玩具』。紹介者の林さんはいろいろな理由からこれを合計三冊持っているということなので、その場で感謝感激なことに一冊もらってきて早速読んだんだけど、SF漫画としてオールタイム・ベスト級におもしろかった。 もともとチラシのウラ漫画(自サイト)で掲載していた漫画を集めた単行本であり、もともとWebで爆発的にバズっていたという経緯もあったようなので、知っている人も多いのだろう。なので、サイトに飛んでもらえれば、この単行本に収録された作品についても最初の

                                                      ド傑作揃いのSF漫画短篇集──『有害無罪玩具』 - 基本読書
                                                    • 韓国の注目作家が紡ぐ、科学的でエモーショナルな絶品SF短篇集──『わたしたちが光の速さで進めないなら』 - 基本読書

                                                      わたしたちが光の速さで進めないなら 作者:キム・チョヨプ発売日: 2020/12/03メディア: 単行本(ソフトカバー)2020年は10年の区切りということもあって素晴らしいSF短篇アンソロジーが多数刊行され、SF短篇集も豊作だったのだけどここにきてまた凄いSF短篇集が刊行された。韓国の作家キム・チョヨプによる『わたしたちが光の速さで進めないなら』だ。 1993年生まれで本書(原書は2019年刊行)がデビュー作とバリバリの新人なのだけれども、技術的には円熟の域だ。ファースト・コンタクトあり、言語SFあり、コールドスリープ、マインドアップロードあり、テクノロジーによって変容していく人間の姿や社会を描き出していくサイバーパンク的な要素も各作品に共通していて──と、SFでは定番のネタを毎回「こう演出するのか〜!!」と驚かせてくれた。 毎回読後には現代の物語、感覚だな……と納得させてもくれ、凄い凄

                                                        韓国の注目作家が紡ぐ、科学的でエモーショナルな絶品SF短篇集──『わたしたちが光の速さで進めないなら』 - 基本読書
                                                      • 《ウィッチャー》ワールドの原点とその本質的な魅力を味わえる、入門にうってつけの一冊──『ウィッチャー短篇集1 最後の願い』 - 基本読書

                                                        ウィッチャー短篇集1 最後の願い (ハヤカワ文庫FT) 作者:アンドレイ サプコフスキ早川書房Amazonポーランドの作家アンドレイ・サプコフスキによるファンタジィ小説シリーズ《ウィッチャー》は、小説も世界的なベストセラーであるが、本作を原作としたゲームの三部作が爆発的にヒットし本邦でも有名になった作品だ。中でもゲーム完結編となる3は、オープンワールドRPGのトップとして挙げる人が多いほど中身も傑作であった。 ゲーム完結後、Netflixでドラマも始まり(先月第二シーズンが公開)、本邦で止まっていた長篇の翻訳もリスタートし完結巻の5巻まで刊行され──と様々な展開が進行中の本作だが、その流れに乗って短篇集もこうして翻訳されることとなった。邦訳としては長篇の後の刊行になるが、作中の時系列的にも原書的にもこの短篇集の方が先であり、いわば《ウィッチャー》ワールドの原点を味わえる作品集になっている。

                                                          《ウィッチャー》ワールドの原点とその本質的な魅力を味わえる、入門にうってつけの一冊──『ウィッチャー短篇集1 最後の願い』 - 基本読書
                                                        • 現実を見失う毒書「コルタサル短篇集」

                                                          あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 『おれはコルタサルの書いた物語の中に没頭していたと思ったらいつのまにか外にいた』 な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 読んでいる自分が把握できなくなる罠に掛かる、しかも見事に。 現実からその向こうへのシフトがあまりに自然かつスムースなので、「行った」ことに気づけない。リアルからギアチェンジしてゆく幻想譚ではなく、ユメとウツツが地続きなことに愕然とする。剣の達人に斬られた人は、斬られたことに気づかないまま絶命するというが、そんな感じ。 ふつうわたしは、「本の中の世界」の現実と、「本を読んでいる」現実とを分けて考える。両者を隔てているのは、本を構成する物理的な紙の表面であったり、わ

                                                            現実を見失う毒書「コルタサル短篇集」
                                                          • 技術がもたらした価値観の変容が事件へと密接に関わってくるSFミステリ短篇集──『ベーシックインカム』 - 基本読書

                                                            ベーシックインカム 作者: 井上真偽出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/10/04メディア: 単行本この商品を含むブログを見るベーシックインカムと言うと、普通は全国民に一律3万なり10万なりといった一定額を定期的に振り込み続ける、最低給付保障をさす言葉である。僕もつい先日これについての記事を書いたばかりだが、本記事で取り扱う『ベーシックインカム』は、森博嗣、西尾維新、清涼院流水ラインの最先端ミステリ『その可能性はすでに考えた』などで知られる井上真偽の最新作にして、SFミステリ連作短篇集である。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp 僕もこの作品は圧倒的なキャラの強さ、推理における演出のトンデモさとそれを支えるロジックの鮮やかさで大いに楽しませてもらった。そうはいっても、SFミステリはどうじゃろか……と思いながら読んだけれども、これがきちんとおもしろい。短篇はど

                                                              技術がもたらした価値観の変容が事件へと密接に関わってくるSFミステリ短篇集──『ベーシックインカム』 - 基本読書
                                                            • [書評]新訳 チェーホフ短篇集(沼野充義訳): 極東ブログ

                                                              「新訳 チェーホフ短篇集(沼野充義訳)」(参照)とあるようにチェーホフの主要短編の新訳である。2008年から雑誌「すばる」に掲載され、昨年秋に単行本にまとめられた。 新訳というと旧訳が読みづらくなったかのような印象もあるかもしれないが、それはあまりない。旧訳には言葉遣いが多少古い面もあるが、田山花袋の「蒲団」を読んでいるようなことはない……あー、「蒲団」もそれほど古めかしくもないか。 机、本棚、ビンは依然として元のままで、恋しい人はいつものように学校に行っているのではないかと思われる。時雄は机のひきだしを開けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂いを嗅いだ。しばらくして立上ってふすまを開けてみた。その向うに、芳子がつねに用いていた敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知

                                                              • 『ゲームの王国』、小川哲による歴史×時間SF短篇集──『嘘と正典』 - 基本読書

                                                                嘘と正典 作者: 小川哲出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2019/09/19メディア: 単行本この商品を含むブログを見る『なめらかな世界と、その敵』の伴名練を筆頭に今30代前半にはやたらと熱いSF作家が揃っているのだけれども、そのうちの一人がこの小川哲だ。デビュー作『ユートロニカのこちら側』の完成度の高さから期待値は高かったが、カンボジアを舞台に不安定な政治体制、虐殺などの歴史的事象とテクノロジーを組み合わせ、「ルールとはなにか」を問いかける『ゲームの王国』でその才能は本物だと証明してみせた。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp 本書『嘘と正典』は、そんな小川哲による三作目にして初の短篇集である。収録作はSFマガジンに散発的に載った短篇が4つと、書き下ろしの表題作「嘘と正典」、Penに掲載の「最後の不良」の全6篇で、統一感はないかと思いきや実際には大半(少なくと

                                                                  『ゲームの王国』、小川哲による歴史×時間SF短篇集──『嘘と正典』 - 基本読書
                                                                • フリーゲームを「連載する」とは?特集『LiEat』夏休みに遊びたい短篇集 | もぐらゲームス

                                                                  ゲーム連載という新しい形式 ゲームが漫画のように連載される――こう聞いて、意外に思う人はいるだろうか? もちろんコンシューマゲームでも、続きモノの作品は存在する。ただ、それらは続編ではあるが物語的な繋がりはなく、短期間の連作形式でない作品が多いと思う。 一方、フリーゲームでは現在、1時間で遊べる短編で、作品ごとに物語の繋がりを持っている。という連作形式のゲームが出てきた。しかも1作品1ヶ月半ほどのペースで、まるで月刊の漫画連載のような形で連続公開されたのだ。 今回は、そんな全3作からなる連作短編ゲームとして注目を集めている『LiEat』シリーズを紹介しよう。 『LiEat』は、いま開催されているニコニコ自作ゲームフェス4にもエントリーされているので、こちらも見てはどうだろうか。 濃厚な短編をサクサクと楽しめる『LiEat』の魅力 『LiEat』は、以前にも記事で取り上げたように、人気アドベ

                                                                    フリーゲームを「連載する」とは?特集『LiEat』夏休みに遊びたい短篇集 | もぐらゲームス
                                                                  • 韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めた極上のSF短篇集──『となりのヨンヒさん』 - 基本読書

                                                                    となりのヨンヒさん 作者:チョン・ソヨン,吉川 凪出版社/メーカー: 集英社発売日: 2019/12/13メディア: 単行本この『となりのヨンヒさん』は韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めたSF短篇集。こういっちゃあなんだけど「となりのヨンヒさん」というのはそそられるところのないタイトルだ。他の短篇も「養子縁組」、「デザート」、「帰宅」、「雨上がり」とかそっけないワンワードのものばかり。 なので、事前予想としてはうーん、なんともいえないけどめっちゃつまらなそうだなあと思っていたんだけど、実際に読み始めてみれば、日常の風景や違和感がSF的事象や幻想的事象の介在によって増幅される丁寧丁寧丁寧な短篇集で、夢中になってあっという間に読んでしまった。各題からも「文学寄りなのかなあ」と思いきや伴名練の「なめらかな世界と、その敵」的な「アリスのティータイム」であったり、多くの

                                                                      韓国の注目の女性作家チョン・ソヨンによるSF・幻想系を中心に集めた極上のSF短篇集──『となりのヨンヒさん』 - 基本読書
                                                                    • 奇妙で奇怪で底抜けに愛おしい世界を描くデビュー短篇集──『半分世界』 - 基本読書

                                                                      半分世界 (創元日本SF叢書) 作者: 石川宗生出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/01/22メディア: 単行本この商品を含むブログを見る第7回創元SF短編賞の受賞者である石川宗生さんのデビュー作。 当たり前だが短編賞ってそれを受賞したところで本になるわけではなくて(創元の場合は年刊傑作選に入るけど)、その後本を出すためにはちゃんと短篇なり長篇なりを書かないといけない。だが、そこには商業ハードルを超える短篇を幾つも書くっていう「短編賞を受賞する」とはまたまったく種類の異なる高い壁があるので、こうしてちゃんと受賞後二年以内に短篇集を出してくるのはその時点でスゴイ。 そして読んでみればその短篇のレベルの高さに唖然としてしまった。吉田大輔という人物が突然19329人に増えてしまったら──という無茶苦茶な状況を丹念に描く受賞短篇「吉田同名」からして抜群の完成度を誇っていたわけだけれど

                                                                        奇妙で奇怪で底抜けに愛おしい世界を描くデビュー短篇集──『半分世界』 - 基本読書
                                                                      • 魔術的な描写で小説の可能性を広げる短篇集──『オブジェクタム』 - 基本読書

                                                                        オブジェクタム 作者: 高山羽根子出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2018/08/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る高山羽根子さんのデビュー作である『うどん キツネつきの』に続く第二作品集がこの、短篇を3つ集めた『オブジェクタム』である。デビュー作からして新人とは思えないような円熟した技量、さらには奇想、幻想譚の中でもオンリーワンな領域を開拓し続けていたのに、その後発表する短篇、中篇はまだまだここからが本領発揮だと言わんばかりにどれも傑作揃いで、第二作品集はもうずっと待ち望んでいた一冊だ。 3篇とも、細部はぼやけてしまって覚えていないが美しい過去の記憶のように、どこか幻想的な空気の漂う物語である。すでに雑誌等で読んでしまっていたが、眠れぬ夜のためにとっておいた本書を深夜3時ぐらいにモソモソと引っ張り出して読むのは至福の体験であった。そのおもしろさをどのよ

                                                                          魔術的な描写で小説の可能性を広げる短篇集──『オブジェクタム』 - 基本読書
                                                                        • 人生は芸術を模倣する『新訳 チェーホフ短篇集』

                                                                          「これはいい、胸にクる。だが、若い人には分からんだろう」、そう言えるくらい齢とってしまったことに愕然とする。 人生は変わる。人も変わる。なのに、記憶だけは変わらずに追いかけてくる。ふいに思い出した若かりし日々の言動に、夜、独り身悶えしたり、もう何度目かの後悔を繰り返す。懐かしく痛々しくて情けない、そういう想起のよすがとして、チェホフは、恐いくらいに効いてくる。 かつてのラノベがそうだった。押しかけ女房ヒロインや、ハーレム展開なんてありえない。だけど、そんなシチュに気持ちを重ねて共鳴する。好きだと言えずに初恋は、「すき」という言葉の戯れだけだった。「萌え」はバーチャル、リアルは「燃え」だった。そんな残滓や焼けぼっくいに、チェホフは、容易に点火する。 「こんな女いるよね?」「いるいる!」と大きな声で言えなくなってしまったのが、『可愛い女』(『かわいい』と改題されてた)。なぜ声を潜めるのかという

                                                                            人生は芸術を模倣する『新訳 チェーホフ短篇集』
                                                                          • SF短篇の醍醐味が詰まった小川一水最新短篇集──『アリスマ王の愛した魔物』 - 基本読書

                                                                            アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA) 作者: 小川一水出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/12/19メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る小川一水さん久々の短篇集! 最近は《天冥の標》シリーズで超絶オモシロイ大長篇を書く化物という印象が強いかもしれないが短篇の名手でもある。短篇毎に文体がまるごとガラッと切り替わり、コンセプトは明瞭明快で、本書だけでも数学童話から宇宙SF、生物SF、バイクSF(?)、ロボット/AISFにまで多彩な方面へと果敢に切り込んでみせる。一言でいえばSF短篇の醍醐味はここにあらかた詰まっているといいたくなる短篇集だ。 作品の発表年としては2010〜2012年の物が4篇と最近のものは収録されていないが、その代わりに書き下ろしの「リグ・ライト──機械が愛する権利について」で現代のAI関連の文脈をよく捉えた"傑作"が収録されており、全部短

                                                                              SF短篇の醍醐味が詰まった小川一水最新短篇集──『アリスマ王の愛した魔物』 - 基本読書
                                                                            • 『半分世界』の石川宗生による極上の奇想短篇集──『ホテル・アルカディア』 - 基本読書

                                                                              ホテル・アルカディア 作者:石川 宗生発売日: 2020/03/26メディア: 単行本この『ホテル・アルカディア』は、第7回創元SF短編賞を受賞し、奇想短篇集『半分世界』で東京創元社からデビューした石川宗生さんの集英社からの最新作。 『半分世界』は、吉田大輔氏が突然19329人に増えてしまった状況を描く「吉田同名」。道路側の前半分が綺麗サッパリ消失している奇妙な家と家族4人と、それを観察していったいこれはなんなのだ、なぜこんなことが起こっているのかと議論し生活をウォッチする人々の奇妙な物語が描かれていく「半分世界」など、何を食ったらそんなことを思いつくんだ的な着想から緻密にその世界のロジックを構築していく高い技術が冴え渡った短篇集で、とにかく一読して僕は大好きな作品・作家になった。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp で、第二作となるこの『ホテル・アルカディア』にも相

                                                                                『半分世界』の石川宗生による極上の奇想短篇集──『ホテル・アルカディア』 - 基本読書
                                                                              • 現代SF界を代表する作家テッド・チャン、待望の新刊 世界最高水準の短篇集『息吹』12月4日発売決定!!|Hayakawa Books & Magazines(β)

                                                                                現代SF界を代表する作家テッド・チャン、待望の新刊 世界最高水準の短篇集『息吹』12月4日発売決定!! 『三体』と並んで刊行が待たれていた超話題作!! テッド・チャンをご存知ですか? いちばん有名な作品は第一短篇集『あなたの人生の物語』表題作。「あなたの人生の物語」は、2016年に「メッセージ」のタイトルで映画化(監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナーほか)されてアカデミー賞ノミネートなど高い評価を得ました。 「メッセージ」には、新海誠さん、樋口真嗣さん、押井守さんといった日本映画界を代表する監督がコメントを寄せていました。新海誠さんは同作について、「テッド・チャンの名作『あなたの人生の物語』の、想像よりもずっと誠実な映画化。良かった。好きです。」と賛辞を贈っています。 『あなたの人生の物語』は2003年に刊行され、翌年「ベストSF2004」第一位獲得。表

                                                                                  現代SF界を代表する作家テッド・チャン、待望の新刊 世界最高水準の短篇集『息吹』12月4日発売決定!!|Hayakawa Books & Magazines(β)
                                                                                • ケン・リュウの第二短篇集、信じがたいくらいにおもしろい──『母の記憶に』 - 基本読書

                                                                                  母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者: ケンリュウ,牧野千穂,古沢嘉通,幹遙子,市田泉出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/04/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見るケン・リュウの第一短篇集『紙の動物園』は作品水準としても異様にレベルが高く、各所で話題になり評価も上々。ただ、日本オリジナル編集だったこともあって(傑作だけ選り好みでいるし)、続きが出たとしてこの水準を維持できるのか疑問に思っていたが……この第二短篇集である『母の記憶に』を読んで、その心配は吹き飛んだ。 何しろこれがもう信じがたいぐらいにおもしろく、読み始めたら止まらずに最後まで読み切ってしまったのだ。全16篇、長い作品もあれば短い作品もあり、500ページを飽きさせずに読み切らせるとは並大抵の筆力ではこうはいかない。個人的には完全に前作の水準を上回っている。半分以上の作品は書かれ

                                                                                    ケン・リュウの第二短篇集、信じがたいくらいにおもしろい──『母の記憶に』 - 基本読書