好きだった古書店が潰れた。ないものに現在形の「好き」は不似合いだということがなんとも言えず歯がゆい。好きだった古書店には、第一に好きな店員さんがいて、好きな店主がいて、前提として多くの古本があった。本が陽に焼けるほどの光は窓から入らない店内に、いつもよくわからないヴァイオリンの曲がかかっていた。今ではその曲を思い出そうとすると店内までありありと思い出される。その風景の中には、好きな年上の店員と、口下手ながらも何かを伝えようとして(もしくはただ喋りたくて)、レジに安めの古本を束にして持っていく僕がいる。もう終わったことだから、脳裏には都合のいいフィルターが恋愛映画みたいにかかっている。 店の最後の日に、なんとなくを理由にして店に行った。それはなんとなくを理由に店に行かなかった場合の後悔をしたくなかったからだ。 入り口では店主がワードで打ち込んだであろう挨拶の手紙を来客全員に配っている。店はい