2023年4月、村上春樹が6年ぶりの新作長編『街とその不確かな壁』を発表し、初版30万部と話題になった。 村上氏は、1979年に30歳でデビューして以来、40年以上ものあいだ第一線で活躍し、高い存在感を発揮し続けている。他の分野を含めてもめずらしい、超人的な高みにあるクリエイターだ。この特異な小説家のキャリアから、ビジネスパーソンが学ベることがあるだろうか。 僕は「ある」と思う。 村上春樹は、特定の組織やそのときどきの業界の空気に依存せずに、インディペンデントに活動してきた。終身雇用的なコンセプトが一段とゆらいでいる2020年代のビジネスパーソンのキャリアに通じるヒントを彼から得ることは、十分に可能だろう。 村上氏は、90年代ごろまでは自身の創作やキャリアの舞台裏を積極的には語ってこなかった。しかし、2000年代の後半、60歳の手前あたりから、覚悟を決めたかのように後進にむけた「自分語り」