猿がギターを弾いてメス驢馬をうっとりとさせている図。これは時の宰相ゴドイが王妃マリア・ルイーサをたぶらかしているもので、「王と王妃の三位一体の三角関係」の象徴的揶揄である。 18世紀末の「スペインの光と影」を凝縮させた版画集と言われているこの版画集は、当時開発されたアクアティンメント(腐蝕銅版画の一種)を駆使した、陰影のある、光の効果が十二分に生かされた作品である。ゴヤに対して何の知識を持たぬものにさえも、作品の底辺にある芸術家の力量に圧倒されるだろう。しかし、一通り彼の芸術性に感嘆した後、冷静になってこの作品を見ると次々と謎が生まれてくる。先「気まぐれ」という題名からしてどの様な意図を含んでいるのかにはじまり、頁をめくるごとに疑問が後から後から出てくるのである。 「気まぐれ」を理解するため、堀田善衛の「ゴヤ」4部作(新潮社版)を紐解いてみると、「気まぐれ」が「気まぐれ」でない、