総裁選最中の9月16日夜、麻生太郎は闇に紛れて銀座のはずれの小さなホテルの一室に入った。待っていたのは小泉政権以来の盟友である元首相、安倍晋三だった。 安倍は「総裁の座はほぼ手中にありますね。おめでとうございます」と切り出し、握手を交わしたが、その表情はどこかぎこちなかった。元首相、森喜朗から町村派(清和政策研究会)の「特使」としての密命を帯びていたからだ。 「派の総意として町村信孝官房長官を幹事長に起用してほしい。言いにくいけれど最大派閥を味方につけなければ安定政権は難しいですよ…」 安倍がこう迫ると、麻生はおもむろに切り出した。 「森さんに幹事長をやってもらえないだろうか。次の総選挙は自民党の存亡をかけた戦いになる。1議席の取りこぼしが命取りとなる選挙で、きっちり党をまとめていける人物は森さんしか思い当たらない」 この時点で麻生の総裁選勝利は決定的であり、町村派の大勢が麻生支持に流れた