2018年冬に大手出版の編集者を辞め、1人で出版社を開業した。「本を読めば、苦しみの原因は社会にはびこる性差別だと気付ける。生きづらいのは自分だけじゃないと思える」 フェミニズムの視点を知れば「世の中の見え方」が変わる。たとえば痴漢は、2000年代に入るまで性犯罪ではなく男性の「娯楽」として扱われてきた。そんな事実を研究者が雑誌や新聞の分析で解き明かした、牧野雅子著『痴漢とは何か』などを出版してきた。 独立へと背中を押したのは、医大入試の性差別事件だった。東京医科大が女子を減点していたと報じられた翌日、作家の北原みのりさんらと大学前でデモをした。松尾さんはマイクを握り、思わず「ふざけんなー!」と絶叫した。その姿をテレビで見た親戚の高齢女性たちから電話がきた。故郷は長崎の佐世保。「九州は男尊女卑が根強い。説教されると身構えていたら、『よく言った、ありがとう』と涙声で感謝された」