「あなたは会社で何をやっているの」 サッポロビールの技術者、阿部透は妻から突然問われ、返答に窮した。 北海道伊達市出身の阿部は、北海道大学農学部農芸化学科を卒業し、1985年に入社。以来17年間、工場の醸造技術一筋に歩む。日本酒づくりに例えるなら、杜氏の役割を負う醸造責任者であった。仙台や北海道、名古屋と幾度も転勤を経験するが、工場で「ビールをつくっている」という明確な答えを持っていたのだ。 ところが、2002年10月、静岡県焼津市の醸造技術研究所が、「価値創造フロンティア研究所」に移行。阿部はここに転勤し、三谷優のチームに加わったのである(同チームの正式名称は「プロセス工学グループ」だった)。 「発酵技術をもって、新しいエネルギーをつくる」 三谷が掲げていたのは、ビール会社の枠を超えた目標だ。しかし、醸造技術一筋の阿部にとっては、戸惑いの方が大きかった。「『発酵』という言葉だけは、工場で