1920年代に開発され1932年にTimes紙でデビューした、英国モノタイプ社の活字書体「Times」について、《明朝体が広く使われるようになったのは、英字Timesに合わせるためだ》といふ説があるといふんだが。 日本語明朝体活字といふモノに限っても、現在我々が「オールドスタイル」と呼ぶ明朝体活字書体は19世紀のうちにあらかた開発が終ってゐる。確かに円本ブームはTimes書体誕生の頃から始まるわけだが、19世紀末を迎えつつある『日清戦争実記』の頃に秀英四号が独自書風を確立し、続けて1898年(明治31年)に築地体後期五号仮名がデビュー。 20世紀を迎えた『日露戦争実記』の頃には、「現在我々が目にしている明朝体活字」が押しも押されもせぬスタンダードだった。 …… そんな日本語明朝体活字、実は明治10年代に基本書体の地位を脅かされたことがある。弘道軒清朝体(楷書体活字)が東京日日新聞の本文活字