「この本に収めたものには、硬いものも、さほどでないものもあるが、前の二冊と比べても、際立って謎ときの意味合いを含んでいるように思う。つまり私が私なりに蓄積してきた経験や知識にもとずいてよりもむしろ私の乏しい推理と構成との力を費やして、私が踏み込んだことがない迷宮に入ろうとした試みである」(あとがきより) 『記憶の肖像』『家族の深淵』につづく中井久夫の第三エッセイ集。匂いや兆しなど、ニュアンスに対する著者のアンテナ感覚が生んだ文章は、これまで同様、多方向にわたる——いじめについて、本について、色について、記憶について、その後の阪神大震災について、PTSDについて、ヴァレリー詩の秘められた構造について、創造と癒し序説など、長短32篇と詩6篇を収録。巻末の「ロールシャッハ・カードの美学と流れ」は、ホームズ=ギンズブルグばりの推理を重ねたみごとな謎ときで、改めて著者の力量に驚かずにはいられない。そ
![アリアドネからの糸 | みすず書房](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/fb0b9913204809c2206f15f4ba352407ceec2236/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.msz.co.jp%2Ffileadmin%2Fres%2Fcover%2F04%2F04619_1.jpg)