人生を変えた本を選ぶとするなら、その一冊に松浦寿輝の『エッフェル塔試論』を挙げることにしている。著者の異様とも言える執着ぶりによって、エッフェル塔という建造物の特異性があらゆる角度から吟味され、表象文化論を軸足に展開される愛憎入り交じった真に批評的なこの一冊は、私がなぜプラモを作るのか、プラモを通して何を得ようとしているのかを常に考え続けるきっかけとなった。 文庫版では変更されてしまったが、単行本のカヴァーはエッフェル塔の真下から撮影された写真が採用されていて、4本の精緻な鉄の脚が美しいシンメトリーを描いている。記号、イメージ、表象というテーマでものごとを考えるときに、幾度となくこの本を書棚から引っ張り出してはこの表紙を眺め、自分の貼り付けた付箋を頼りに目的の節を探してページを繰るのだ。 人生の半分以上の長い時間において自分に影響を与え続けてきたアニメの完結編は、『エッフェル塔試論』のカヴ