山中に相談して二日が過ぎたころ、人事部宛に差出人不明の書面が届いた。宛先は山中人事部長殿となっていた。 午後一番に田嶋は副部長の伊東から会議室に呼ばれた。入室するなり、伊東が話し始める。 「田嶋さん。困ったことになりましたよ。」 そう言って、書面のコピーを田嶋に見せた。 『御行の人事部に所属する田嶋は、同期である中野坂上支店の山内と不倫関係にある』 書面にはそのように書いてあった。 田嶋は最初、この文面の内容が頭に入ってこなかった。理解出来なかったのだ。 しばらくして意味を理解した田嶋は伊東に聞いた。 「これは何でしょうか」 「それを聞きたいのはこちらです。まず事実確認しましょう。後で嘘を言っていたことが分かったら厳しく対処しますからね。田嶋さんと山内さんは、この書面にあるような関係ですか」伊東の目がメガネの奥で光ったように感じた。鷹が獲物を狙う目というのは、このようなものなのだろうか。