古代から中世にかけて、わが国の書物の主流を占めたのは、 手で書き写した写本である。 とりわけ江戸時代以前の写本は、古写本と呼ばれて重視される。 初期の写本には経典を書写した写経が多く、当館所蔵の最古の写本は、 天平6(734)年に書写された『大智度論』である。 今日知られる多くの古典文学も、写本によって伝えられた。 当館所蔵の『新古今和歌集』は、室町時代中期に山崎宗鑑によって書写され、 同和歌集の最も信頼される伝本のひとつとされる。 また室町時代後期から江戸時代中期にかけて、 奈良絵本と主に御伽草子を内容とした奈良絵本と呼ばれる美麗な絵入写本が流行した。 一方、宋代の中国で木版印刷の書物が隆盛をきわめ、 中国から多くの版本がもたらされると、鎌倉時代後期から室町時代にかけて、 わが国でも木版印刷による版本(木刻整版本)の量産が盛んになった。 仏教寺院が版本出版の中心となり、平安時代後期の奈良